「うわ、寒い」

「ほんまやなあ」




外に出た瞬間に、できれば触れたくはない冷たい空気が私を包んだ。
謙也と同じように体を縮こまらせる。白石君は手袋もカイロも完備していて、一人にこにこしていた。
一刻も早く家に帰りたい。こたつに入ってぬくぬくしたい。
隣を歩く謙也の手を掴むか掴まないか考えていると、謙也は急に立ち止まって声をあげた。




「携帯忘れた」

「まじか」

「取ってくるわ」

「えええ、やだあ」

「やだやない!」

「早くせえよ謙也」




謙也は走って行ったけど、どこに置いたかも分かってないだろうから時間がかかるんだろうな。
少しでも寒さをしのぎたくて、私たちは校舎の柱の陰に移動した。
寒い寒い、と言うと余計に寒くなる。でもやっぱり言っちゃう私を見て白石君が笑った。




「謙也遅いね」

「走ってんの見つかって怒られてるんとちゃう?」

「ありえる」

「こないにかわええ彼女を極寒の中待たせるとはなあ。俺が後でしばいたる」




白石君は殴る真似をした。
彼女、と言われたのがなんとなく恥ずかしくなって、赤くなってるはずの顔を隠すように下を向いた。




謙也を待つ間他愛もない話をしていたけど、白石君はおもしろい。
我慢できなくて大声で笑っていると、バタバタと駆けてくる音が聞こえた。振り返ると謙也が息を切らせて立っていた。「すまん」と一言謝ると、私と白石君の間に割って入る。




「楽しそうやん」

「謙也、名前ちゃん笑いのセンスあるで」

「白石君の話がおもしろすぎるんだってば」




さっきまでの会話を思い出してまた笑いそうになり、私は口元と笑いすぎて痛いお腹を押さえた。




「…ふぅん」




謙也は私たちを見てつまらなさそうに言った。帰っている途中も珍しいことにあまり話さなかった。
特に私の話には、へー、とかふーんとか、気のない返事をするだけだった。
さすがに腹が立った私は、白石君と別れてから謙也に文句を言ってやろうと睨んだけど、そんなの気にもしないように謙也は私の腕を掴んだ。




「な、なに謙也」

「別に」

「別にって…。っていうかなんで私の話ちゃんと聞かないの」

「白石と話してる方が楽しそうやんか、お前」




お前、なんて言われて私はびっくりした。謙也は私をいつも名前で呼んでいるし、大体こんな風に乱暴なことをされたことはない。
眉間に皺が寄るのを見て、怒ってるみたいだと気がついた。




「謙也、」

「あんまほかのやつと仲良くすんな」




ぐいっと近づく謙也に、心臓が跳ねた。怒ってるのにときめくのもどうかとは思うけど。
結構理不尽なことを言われてる気もしたけど、謙也に負けてごめん、と謝る。
それなのに謙也は怒った顔のまま、私をどなたかの家の壁に押し付けた。




「け、謙也?」

「あかん、許さへん」




言うと同時に荒々しく唇を合わせてきた謙也は、いつもの謙也じゃないような気がした。
謙也って肉食系だったのか、と今はどうでもいいことを考えていると、謙也は唇を離し、それだけの隙間しか開いていない距離で私をじっと見た。




「名前」

「う、ん?」

「俺が優しいなんてあんまり思わん方がええで」




そう言って謙也がまた迫ってくるから目を閉じる。
体温が上がっていくのを感じながら、充分わかった、と思った。




101231
更新久しぶりすぎた





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