「うまそう」



私の隣を歩く仁王がこっちを見て呟いた。
仁王が向いてる方に目をやるとコンビニが。あー、おでんとかおいしそう。寒いから。肉まんもいいな。



「おでん?肉まん?どっち?」

「は?」

「うん?」

「……は?」



…あれ。食べたいんじゃないの。聞き間違い?
いやいやそんなはずは。
もう一回聞いてみよう。



「うまそうじゃ」



間違えてないや。
じゃあなんなの?フライドチキン?
まさか隣のマックを見てたんじゃ…。
と考えたところで、さっきから仁王の視線がそこまで遠くに行ってないことに気づく。
うん?

私が動くと仁王の目も一緒に動いた。
……うん。



「どこ見てるのかな仁王君」

「名前」

「の?」

「ほっぺ」

「で?」

「うまそう」



そうかそうか。私のほっぺはふっくらだからね肉まんに見えても仕方ないかははは。



「痛い痛い!何するんじや」

「誰が肉まんなの失礼だね」

「誰も言っとらん」

「でもおいしそうって言った」

「言ったけど」

「ほら」

「や、別に肉まんと関連付けたりはしてないぜよ」



仁王は両手を伸ばして私のほっぺに手をかけると、そのまま横に引き伸ばした。「びょーん」という効果音までつけてくれる。
ほんと失礼だなもう!



「ばか」

「あ」



顔を背けて逃れた私を仁王は不服そうに見ている。
ちょっと痛いし。髪を引っ張った仕返しだったのかな。
鏡で見たら寒さのせいもあってか赤くなっていた。



「ほらもう、見てよ赤いじゃんバカ」

「おー」



おーじゃない。あんたがやったんだ。

見てよと言ったからかなんなのか、仁王はポケットに手を突っ込んだまま、その長身を屈めて私に顔を近付けた。そして「赤いの」と呟く。
ややや、近い近い。



「赤い」

「仁王がやったんだってば」

「うん」

「うんじゃなくて」

「うまそう」

「またそれ」

「名前は多分、甘くておいしい」

「はああ?」

「そうに決まっちょる」



わけわかんない。たすけて。通訳求む。
いつから仁王は電波少年になったんだ。お腹空きすぎておかしくなったんじゃないの。それか丸井の影響か。



「ちょっと一口」



もうどうすればいいんだろうこれ。対処も回避もできない。かといって怒ったりもできない。
けどとりあえず後で言わせてもらおう。
そこはほっぺじゃあ、ない。




111130

もう11月も終わりです。次は仁王君の月ですね\(^O^)/




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