あのときの鮮明な光は未だに海馬の奥底まで染み付いて忘れられない。きらきらと金色の鱗粉を纏っているような、そんな幻想すら抱かせるあの怒気。全身を粟立たせる神聖な美しさ。一度目の出会いは瞬く間に消えた。絡む視線に激情と共に訪れる歓喜。狂気の欠片が鎌首を擡げて囁く。

―――ほうら、手に入れてしまえ。

暗く湿った舌が冷ややかに心臓を舐め上げる。いや、まだだ。まだ早い。ちらつく誘惑をそう振り切って、執行猶予だという意味合いを強く込め薄く笑って別れた。二度目の出会いは戦禍の終盤。宙に浮いている酷く傷付いた身体に燃えるような怒りを覚えた。何に対してなのかは未だにわかっていない。

「ロー、ロー…どこっ?」
「ここにいる」

迷子の稚児のように不安げな声で呼ぶルフィは、ローを見つけた瞬間にへにゃりと安堵して抱き着いてくる。高貴な魂を持った生き物は堕ちるのも堕とすのも、とんと容易かった。彼が欲しているのは詰られ嬲られ蔑まれることだったから、あえてそれら全てを与えず愛し慈しみ癒し尽くした。夜が怖いと泣けば朝までずっと添い寝をしてやり、一人が寂しいと泣けば他愛もない話を延々と続けてやった。

「賞金首になったときは本当に心配したぜ」
「なんで…?」
「あんな可愛い笑顔で写ってんだ、悪い虫がついたらどうする?」
「そんな奴いねえよ!ばかだなあ、ローは」

こんなふうに。ふわふわと笑うルフィ。血の溢れる傷は綺麗に治療してやったけれど、心の傷はきっと一生治せないだろう。仲間との突然の別れに、眼前で兄を亡くしたショック。外科医である自分は外傷なら簡単に治せるが、心理についてはさっぱり初心者だった。しかし、傷がなかったものと錯覚させるには十分な知識を有していた。隙から入り込んで中心に居座ればいい。付け込む隙。それは深い傷を刻んだ存在。あたかも昔から一緒に過ごしていたのは死んだ兄ではなく、ローだったのだと思い込ませる作業は極めて困難に近かったが、持てる全てを費やした結果はとても甘美な依存だ。まあ、ローのそれは依存と呼ぶには少し歪つで悪質過ぎたが。

「なあ、ロー」
「どうした?どこか痛いのか」
「ううん……あの、な」

ちゅーしてくれ。無防備に身体を委ね、頬を染め可愛らしくキスをねだる華奢な身体をソファに優しく倒す。大きな瞳を伏せてきゅっと唇を結ぶルフィの要望通り、その柔らかな赤を自分の唇ではむ。
軽く吸ったり甘噛みをして、口を開けるように促し舌を貪った。何をされるかわかっているくせ、初々しい反応を忘れないルフィがとてもいじらしく可愛い。口腔の隅々を長い時間をかけて舐め尽くし、ほんのりと酸欠になるのを待つ。

「んっ…ふ、ぁ」
「いつ見てもかわいいな」
「……ばか」

潤んだ瞳で睨まれても欲を掻き立てるのみで、ちっとも怖くないといつ気付くのか。それでも今日はローが何を考えているかを悟ったらしく、弱く小さな力で頬をぶつ。ゆらゆらと肩で息をするルフィに笑ってみせて、大袈裟に「そういうことすんならお仕置きだな」と耳元で囁いた。目の届く場所に置いていた愛刀へ手を伸ばして、鞘からゆっくりと抜く。

「っ、痛いのやだ……!」
「安心しろ、キモチヨくなるだけだ」
「ひ……っ」

じたばたと暴れる彼を押さえ付けた。ROOM…そう呟いて己が能力でサークルを作り、刃を一閃させる。手中に収めたのはルフィの肩から下の腕二本。愛おしげに右腕を撫でる。暫く外に出ていないため、全体が白く細いものへと変貌していた。中でも一番変化が顕著な指の一本一本を、ローは自分の長い舌で丁寧に舐めはじめた。驚いて目を白黒させていたルフィは、びくりと身体を震わす。ローの能力は身体と身体を痛みを与えず切断するが、感覚を奪うことはないので快感をダイレクトに感じているのだろう。自分の指が切り離されて目の前で舐められることがまた、その快感を増長させているに違いない。

「ぁ…う、ゃ」
「感じてるのか?」
「んん…っ」

いやいやと幼く頭を振るうルフィに自分の残虐性が舌なめずりをしたのを自覚したローは、もう不必要だと二本の腕を部屋の隅へ放り投げた。ちょっとした痛みに眉を寄せる彼にもう一度キスをして、乱暴にベストを剥ぎ取る。露になった肌は淡く色付いていて、一際濃い甘みを放つ二つの突起を親指で潰した。すると電流が走ったかのように背筋をぴんと張る。ひい、とルフィが息を飲んだ。

「ひゃっ、あん!」
「気持ちイイか?」
「あ、やだ、や…っ」

摘んで、転がして、爪で弾く。耳穴に舌を突っ込み囁く。首まで桃色に染め上げて声を出すルフィは、まるで一種の芸術品のようで。噛んでほしいかと尋ねれば戸惑いながら微かに頷いた。否定的で拒絶の言葉を吐くと言うのに行動は素直で大胆だ。願いを聞いてやって、ローは心臓が近い左の方にかじりついた。




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