‐残暑‐




ナミから、夏に何度も嗅いだことのあるような、だからといって香水でもない、匂いがしている。
「何の匂いだ?」
鼻の穴を広げて近くの空気を嗅ぎ回っているおれに、
「日焼け止めじゃない?」とナミは笑って言った。
「結構好きなんだよな…」
隣にいたサンジが不意に呟いた言葉に、おれは、ふーん‥とだけ思った。
なんとなく集まった3人が並んで歩いた、終業式の日の帰り道だった。



明日で夏休みが終わる。
宿題もなんとか昨日ゾロと一緒に全部終わらせたし、最後の思い出に花火大会をしようといって、いつもの仲間を近所の公園に誘った。
ゾロと花火を選んでいるあいだ、久しぶりにサンジに会えると考えて、おれは何故か少しどきどきしていた。
この40日間、サンジは何をして過ごしていたんだろう。
海の日にゾロと3人でプールに行ったっきり、また遊ぼうなといったけれど、サンジとは登校日以外結局会わなかった。
登校日だって、会ったというより、廊下で女子と楽しそうに話してるところをおれが一方的に見ただけだった。


マッチを導火線に近付けると、勢い良く火花が飛び散って、煙の尾を引きながら高く昇った小さな火の玉が、頭上でバラバラとはぜた。
20連発をゾロに撃って笑っていたら、人間に向けるなと言ってナミにまで殴られた。ちらっとサンジを見ると、ビビの隣で、手持ち花火を両手にクルクル回して二人で遊んでいる。楽しそうだな、おれもまざりにいこうかな。
「付き合ったんだって」
ナミがコソッと話しかけてきた。
「え?」
「7月にお祭りあったでしょ。ビビ、勇気出して誘ったら、サンジくんOKだったんだって。それから。でもまだ秘密にしてるんだって」
だから内緒ね、とちょっと舌を出していたずらっぽく笑う。
「…ふーん」
ないしょなのに…おれに言っても良かったのかな…と思ってたら、何だか急に腹が痛くなってきた。
「わりい、便所いってくる!」
ウンコは今朝もう出たし、痛いのは胃より上の辺だったから本当はなんも行く必要なかったけど、何だか分からないけど便所の方に向かって走っていた。

花火をしてる広場から少し離れた公衆トイレの近くのベンチに座る。膝にぽたぽた汗が落ちるから、顔を手で拭ってみたら涙だった。なんでだろ。
‥‥サンジは夏休み、おれと会わない間にビビと会ってたのか…。
おれはお祭り、ゾロと一緒に遊びに行ったけど…、サンジはビビと…。お祭りは7月のおわりだったから、一ヶ月になる。

‥‥‥
‥もうキスとか…してるんかな。
‥‥エッチ、とか‥。

自分は何を考えているのか、顔を両手でバチバチ叩いていると、
「大丈夫か?」
ゾロが側まで歩いてきてた。
「お、おー!」
顔をゴシゴシこすって笑ってみせる。
「冷えたんだろうと思って」
ゾロは右隣に腰掛けて缶のお茶をくれた。
「あちいじゃん」
「だから、あったまんだろ腹が」
別に本当に腹が痛いわけじゃなかったけど、一口飲んだ。
「‥‥‥マユゲからだ」
「へ?」
ゾロが缶を指差して、
「お前に、持ってけって。」
サンジ‥‥。
おれはゾロに聞いてみた。
「サンジとビビってさ、付き合ってるんだってな」
「‥‥ああ、らしいな」
‥‥ゾロ、知ってたんだ 。
ナミも知ってて…、おれは知らなかった。
 おれだけ ‥‥


「んんっ?なんだっ?」
急にほっぺをつままれて、おれはゾロの方を見た。ゾロは静かな深い目でおれに言った。


「‥‥なみだ」


























「遅かったわね‥、大丈夫なの?」
みんなのとこに戻ると、ナミが心配そうに話しかけてきた。
「わりーわりー、ビチビチでよー!」
「きたないわね、もう!サイダーばっか飲んでるからよっ」

めずらしくついたウソ。でもみんな普通に笑ってたから、泣いたのはばれなかったみたいで安心した。
サンジにお茶ありがとーって言ったら、世話かけんなって、いつもみたいにめんどくさそうに笑ってた。

ホントはあのあともトイレなんか行ってない。なんでだか分からないけどグズグズ泣けてきて仕方がなかった。ゾロはずっと隣にいてくれて、これ使えと渡されたタオルでおれが鼻をかんでも怒んなかった。
やっぱイイヤツ。ゾロが友達で、おれはしあわせだ。


大好きなデカイ花火も全部終わって、小さい線香花火だけが残った。みんな一本ずつ持ってろうそくを囲む。ゾロがさっきみたいにおれの右にすわった。
左は、ビビ。その隣は、サンジが‥。

だれのが最後まで残るか、ちっせぇのに意外としぶとい火の玉に、しゃがんだビビがバランスを崩してちょっとだけおれにぶつかった。
「きゃ、ごめんなさいルフィさん!」
あたったビビの二の腕は冷たくてやわらかくって、ナミと同じあのあまい匂いがした‥。

『結構好きなんだよな』

急にあのときのサンジの言葉が浮かんだ。
同時に、好きなのは日焼け止めの薄く伸ばされたおんなのやわらかいハダを思い出すからなんだと‥‥ぼんやりわかった。

「おーだいじょう「大丈夫?ビビちゃん!」
おれが聞こうとしたとき、その隣のサンジが肩を抱いてビビを支えた。さっきのつめたくてやわらかくて細い腕に、長い指が少しだけ食い込んでいる。
ビビはちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに大丈夫ですよと笑って、それから、それとおんなじカオでサンジもビビに笑いかけた‥。


サンジは 、

 『付き合ったんだって』


‥‥サンジは、


ビビのことが好きなんだ !


いきなりかおがムチャクチャにあっつくなった。胸と腹の間らへんもぎゅうっと痛くて苦しくなって、おれは歯を食いしばった。
なんでだかまた泣きそうになってることに気付いて、あわてて視線をサンジとビビから花火に戻す。

「あ、」

ぜんぜん大丈夫だと思ってたおれの線香花火の大きな火の玉が、ぶくぶくふるえたまま地面におちていた。

それでいま、まっくろになっておわった。








fin.





畫茶さんから以前頂いた「せいたかあわだちそう」の前に起こったお話をサイトさまから頂いてきました!畫茶さんの貴重なルフィ目線のお話を最後にこうして読むことができて本当に幸せです。日記も拝見致しましたが、私は「ビチビチ」発言のルフィに愛を感じます^^ルフィは「男の子」というより「男子」という方がしっくりきますよね。(だって17だもの!)普通にシモの話もするし今更隠したりしもしない男らしさを持っていると思います。自分と女の子を比べちゃうルフィがかわいくて…うう…先ほど男らしいなんて言っておきながら矛盾してますよねすいません…でも本当一生懸命でひたむきで…心から応援したくなっちゃいます。素敵なお話ありがとうございました!
本当に畫茶さん今までお疲れさまでした!そして本当にありがとうございました!ずっと大好きです〜!

梅子より


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