「‥‥て めえはっ!わざとやってんのか毎回毎回っ!!」

極寒の冬島を近くして皆が船室にこもる中、どうしてうちの船長は海を愛しすぎるあまりびしょ濡れになってしまうのだろうか。この、罪のない優しいコックさんを巻き込んで。

「あっはっはっ‥だってよー、」

のんきに笑う学習能力の低いボス曰く、白いウサギの群れが海の上をピョンピョン跳んでいくからスゲーフシギウサギだーってよく見たら今まで見たことない魚なもんで喰ったら100倍うめえんじゃねえかって迷わず両ウデ伸ばしたら思ったより遠くて何でか落っこちちまったんだからマジでビックリするよなぁ‥って、オレがだっつうの!!!

「‥お前、オレが見てなかったらどうするつもりだったんだよ」

毎度あの、ルフィがうっかり身を乗り出しすぎた瞬間に走る戦慄つったら5年は寿命を縮められる。

「でもサンジ助けてくれたじゃん」

そりゃ危なっかしくて嫌でも見守るしかねえんだよ、‥‥お前から‥目を離せるわけあるか‥。

「や、そうじゃねえよ、だから‥‥」

このメビウスの問答も散々やり尽くした、全く‥。

「ックシュン!うぅーさびーっ!」

それぞれブランケットにくるまって身体を暖めるも、ルフィのくちびるはまだ青い。囲むストーブの上で温めたミルクをマグに移してやると、ふうふう言いながらひとくち飲んだ。

「サササンジイィ‥マダサブイデス‥」

「知るか!」

縮こまりガチガチと歯を鳴らす姿は哀れだが、甘やかすとロクなことがねえ‥、いやしかし死なれちゃ困る‥。自分の毛布も頭に被せてやると小さなマトリョーシカは抱えた膝にあごを載せ、震えながらもニッコリ笑った。

(うぅ‥‥クソ可愛いなちくしょう‥。)

愛くるしいのと、早くなんとかしてやりてえので今すぐ抱きしめたい衝動に貫かれるが、甘やかすとロクなことが‥‥。
本音と建前に板挟みになりながら、一番ロクでもねえのは、あり得ないほど可愛く甘えてくれるニセ船長と、それをこっぱずかしくて吐きそうなほど優しく受け止めてやっているニセの自分を想像しているオレの思考回路なんだから世話がない。

「さんじ、もう一杯くれ」

傍らでボーッと葛藤していると、いつのまにか飲み干しておかわりをしてきた。
カップを持たせたままミルクパンを傾ける。こぼしたら危ないからと何気なく添えた左手が、ルフィの冷たい指に触れて‥少し焦るが咄嗟に引っ込めるのもおかしくて、そのまま出来るだけ自然を装い手の甲を包んだ‥。

 ‥‥‥

二人で持ったひとつのカップに動揺がばれないよう黙ったままゆっくりと鍋を傾ける間、手元の様子をルフィも何も言わずに真ん丸な目でじっと見ている。
‥‥やっぱ‥不自然 か、だよな‥?
だからっていまさら離したらそれも変だしとりあえずつぎ終えてしまうまでは‥

「なあ、手!どっちも握ってくれ!」

またも一人で葛藤していると、ストーブだけがシュンシュンと鳴る静かな部屋にそれがやけに響いて、思わず「へっ?」とマヌケな声が出た。

「あったけえもん、サンジの手」

そんな笑顔で言われて、断れるわけがない、むしろ願ったり叶ったりっつうかなんつうか‥。

めんどくせぇなと呟くも内心ドキドキしながら鍋とカップを置く と同時にルフィが抱き着いてきた。

「何やってんだ!あぶねえだろ!!」

少し後ろに重心が傾いたオレの首に腕を回して、

「へへっ、やっぱサンジが一番あったけえ」

膝に乗りながら頬を擦り寄せてくる。ついさっきした妄想よろしく可愛らしいルフィが目の前どころか完全に密着していて、二人分の体重を支える後ろの両腕は、抱きしめたさにわなないた。

「ぎゅってして!」

だーもうっ‥そういうこと言うか?

「ああ?‥やだよ」

‥おれもとことん不器用な性格だよな。

「いーだろ?さみいんだ!」

‥‥ったくよ、勝てるわけがねえ‥

「にししし」


さむいさむいと笑いながら身をよじる腕の中のルフィは、オレがあたためるまでもないほどもうポカポカになっていた。


ん?
‥あれ?

それ‥‥

もっと期待してもいいっつうこと‥?





畫茶さんより「ルフィがまた無計画に海に飛び込んで→サンジがルフィを助ける→毛布とかコーヒーとかでルフィを一生懸命温めようとするサンジ(抱きしめて温めたいけど手が出ない)→そんなサンジの葛藤をよそにサンジに抱きつくルフィ→やっぱサンジが一番あったけえというバカ甘いお話」を書いて頂きました!もうこの長いリクエスト内容!大好きな畫茶さんの目の前で自重できませんでしたすいません…でも快く書いて下さった畫茶さん本当にありがとうございました!こんなわがままリクエストなのに「書きやすかったです!」と笑顔で(私の頭の中では)言って下さった畫茶さんマジ天使です…!畫茶さんの書くお話は本当に繊細で素晴らしいと思います。私ボキャブラリーが乏しいので、もっと素晴らしいところも絶賛するところもあるのですが何と言葉に表したらいいのか分からない状況です。畫茶さんのサンルに圧倒されて言葉が出ないという表現も間違いではないと思います。とにかく本当に素敵です。憧れます!畫茶さん、この度は本当にありがとうございました!とっても大切にします!

梅子より


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