左肩にあった心地良い重荷がすっと失われたかと思って瞼を上げると、目線の先ではルフィが寝ぼけた目をがしがしと擦っていた。
「もう起きるのか?」
「腹へった」
あたりはもう夕焼け色に染まっていた。もうすぐ夕食の時間だ。ルフィの腹の虫も鳴り始めているようだ。
ゾロは今になって深く後悔した。こんなにすぐに自分からルフィが離れていってしまうなら、一緒になって寝ぼけているのではなくてずっと彼の寝顔を見ておけばよかった。ゾロの幸福であたたかい一時は、ルフィがダイニングへと足を運ぶことで呆気なく終わりを告げた。
今日の昼間は絶好の昼寝日和で、ゾロはこの機会を逃す手はないと思いルフィを昼寝に誘った。いつもの場所に尻をついて居座ると、ルフィも同じようにしてゾロの隣りに座った。ゾロが目を閉じて眠りに入れば、だんだんと自分も眠くなってきたのかゾロの肩に頭を乗せて昼寝をし始めたのだ。
あの男にはどうしてもルフィを渡したくない。ゾロの頭に、一人の金髪の男が浮かぶ。しかし自分には料理の腕もない。ルフィを喜ばせることができる手立てを知らない。だからどうかこの手の内にある強さで彼を守り抜くことを心に誓った。敵から、海から、痛みから、悲しみから、そしてあの男から。そのためにはまずあの少年を自分のものにしなければ話は始まらない。

扉の外から聞こえてくるサンダルの足音をサンジは聞き逃さなかった。ルフィが腹をすかせてダイニングへ入ってくる。
サンジはそれまで盛り付けに専念していた生野菜のサラダを全部流し台に突っ込んで、すぐにフライパンと油を出してぶ厚い肉を焼き出した。肉の焼ける独特の匂いがする。ルフィはこの匂いが好きだ。
「肉のにおいがするっ」
案の定、ルフィが涎を垂らしてダイニングへ入ってきた。フライパンの上に載った厚い肉を見て、うまそーっ!と声を上げる。自然と笑みが零れてきて、サンジは危うく咥えていた煙草を口から落としそうになった。
「昼寝はもう終わったのか?」
「昼寝って、もう夕方だぞ?おれは腹がへったんだ」
だからその肉早くちょうだい、とルフィが目を輝かせて強請った。
―…ということはあの男は今一人寂しく昼寝をしているというわけだ。サンジはキッチンの扉を見ならがほくそ笑んだ。昼間はルフィよりも幸せそうな顔で寝ていたが、さすがにルフィの食欲には敵わなかったらしい。ざまあみろだ。
あの男には絶対に勝てる自信がある。あんなハラマキ野郎に負ける訳がない。サンジはずっとそう思ってきた。自分には料理がある。ルフィの最大の欲求を自分は隙間なく満たすことができる。ただの飯炊きでもいい。それでもルフィが自分を必要としてくれるのならばこれ以上の幸せはない。

サンジが焼けた肉の載った皿をルフィの座っているテーブルに置くと、キッチンの扉がぎぎぎと開いた。夕焼けの光と共にダイニングへ入って来たのはゾロだった。サンジは舌打ちをしたい気分になった。せっかくのルフィと二人きりの時間だったっていうのに。
ゾロはサンジには目もくれず、ルフィに近寄ると徐に「俺から離れるな」と口走った。ルフィはゾロの言葉に、頭の上にハテナを浮かべながら「なんで?」と首を傾げた。
「お前が心配だからだよ」
「心配?」
この子供には言葉で何を言っても分からないと踏んだのか、ゾロはルフィの腕を無理矢理掴んでキッチンを出て行こうとした。しかしそれをサンジが見過ごす訳がなかった。おい待てよ、と声を荒げてもう片方のルフィの腕を掴んだ。
「ルフィは腹が減ってんだよ。手を放せ」
「飯なら後からいくらでも食える。俺は今ルフィに話があるんだ」
「寝ぼけてんのか?こいつは肉が食いてえつってここへ来たんだよ」
「ただの飯炊きに用はねえ。早くルフィを放せ」
ただの飯炊きでもいいとつい先程思っていたサンジだったが、それをゾロに言われるとなると話は別だ。言葉では言い表せないような大きな怒りが込み上げてきて、咥えていた煙草を食いちぎってルフィの腕を掴む力を一層強めた。ルフィが少し眉を顰めたのを右目の端で捉える。
「ルフィの食欲にさえ敵わねえくせによく言うぜ。お前はこいつの何かを満たせんのか?」
「だからこれから満たしてやろうと思ってんだよ」
こいつの性欲をな、とゾロが口角を上げた。ある程度の一線を越えることさえできれば、無能な子供などあとは自分についていかざるを得なくなる。抱き締めて、キスをして、身体を組み敷いてしまえば―…
「冗談も大概にしろよ…ルフィに手を出したらどうなるか分かってんのか」
はいそうですか、なんて勿論サンジが許す筈もないが。ルフィをものにするなんてことは、想像していたよりもずっとずっと難しい。
「分からねえな。仮にもしルフィがてめえの所有物だったら考え直してやるよ」
ゾロが言い終わるや否や、漆黒の長い足が物凄いスピードでゾロのみぞうちを狙ってきた。喧嘩っ早いだなんて思ったがゾロも刀を抜いていたのでお互い様だった。さすがのルフィも危険を感じたのか、やめろよっ、と二人の間で声を上げた。
するとキッチンの戸が勢い良く開いて、腹減ったーっとウソップとチョッパーが陽気に入ってきた。
ゾロとサンジはばつが悪そうな顔をして結局二人ルフィから手を放した。ゾロはダイニングから出ていき、サンジはキッチンへと戻っていった。ルフィだけが、何であの二人はあんなに怒っていたのだろうと疑問に思いながらその場に立ち竦んでいたが、ぐーっとお腹が鳴ったので、あれはいつもやるしょうもないケンカだと思うことして、テーブルの上に置かれていた肉を三等分してウソップとチョッパーと仲良く食べた。





畫茶さんへ相互記念!「サン+ゾロ×ルフィ」でした。
私も双壁×ルフィが大好きなので書いていてとても楽しかったです^^ちょっと攻めズが大人げなくてすいません。×より→寄りで申し訳ないのですが、きちんとルフィを取り合っているでしょうか…?(不安)この度は素敵なリクエストをありがとうございました!そしてこれからもよろしくお願いします^^

梅子より


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