「海?」
ゾロは眉間に皺を寄せた。
「夏休みにな、みんなで行こうってウソップと話しててな」
ルフィが楽しそうに話した。横でウソップもうんうんと相槌を打っている。
会社から帰宅しリビングに入ると、すぐにひょこひょことルフィが駆け寄ってきた。ゾロのシャツの裾を引っ張って、徐に「海行こう」と言い出したのだ。
そして冒頭に至る。
海か。ゾロは考えた。車を貸してほしいとかそういうことは別にどうでもいい。問題はルフィが水着を着ることだ。その場にいるのが自分だけならいいが、ルフィは確かに言った。「みんなで行こう」と。
(みんなか)
ゾロはちらりとキッチンにいたサンジに目を走らせた。相変わらず咥え煙草で夕食の準備をしている。ルフィの水着姿が見れるなんて至福以外の何物でもないが、ウソップならまだしもサンジまでもが一緒の海に行こうと言うのならば話は別だ。しかしルフィ自身が四人で行きたがっているものだから、ゾロは何も言えない状態だった。
「帰りの運転はサンジがするって言ってるから。いいだろ?夏休みに、行こうよ」
もうサンジには話を通しているのか。ゾロは唇を噛んだ。ならばあの男も自分と同じようなことを考えているに違いなかった。
いいだろ?とルフィが大きな瞳をずいとゾロの顔に近付けた。ゾロはルフィの熱い押しにおされ気付けば首を縦に振っていた。ゾロの反応に、ルフィはやったと言って可愛く笑った。
「日にちはいつにしようか」
「それは気が早すぎだろ。まだ六月だぜ」ウソップが横から口を出す。
「早いに越したことはないだろ。うし決めた。十五日にしよう」
「八月十五日?何でお盆の一番混む日に行くんだよバカか」
「いいだろ、人が多い方が楽しいじゃねえか」
ルフィとウソップのやり取りを聞きながら、ゾロはテーブルの席についた。シャツのネクタイを緩めて、ぼんやりとルフィを凝視した。細い四肢、括れた腰、小さな尻…って俺は変態か。ゾロはぶんぶんと頭を横に振った。どうやら少し興奮しているらしい。ルフィと海、いらないオマケが二つほどあるが。
「泳げねえくせによく海に行きてえなどと言えるよな」
ふと声がした方に振り向くと、隣りにサンジが座っていた。煙草の煙が鼻につく。しかめっ面をして、ゾロはそれを手で払った。
「泳げねえから海に行きてえんだろ」
我ながら驚くほど適当にあしらってやった。
「今お前が考えてること当ててやろうか」
ルフィの水着姿。サンジはそう言って口角を上げた。ゾロは頭に血が昇って、お前もだろうがと口走った。
「まあ否定はしねえけど」
「ルフィに手出したらタダじゃおかねえぞ」
「その台詞、そっくりそのまま返してやるよ」
するとキッチンの方で薬缶が湧いた音がした。サンジはガタンと席を立つと、海楽しみだなと言い残してキッチンに消えていった。今だルフィとウソップは下らない言い争いをしている。サンジの背中とルフィの顔を交互に見て、こいつにだけは絶対ルフィはやるまいとゾロは心に誓った。


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