「ごめん、急に呼んで。大学行ってたんだろ?」
「いや平気、ちょうど授業も終わった頃だったし」
そう言ってサンジはルフィに弁当が入っているであろう袋を渡した。
普段着のサンジが教室のドアに立っていて、ウソップは腰を抜かしそうになった。昼休み、ルフィが何やらこそこそと電話をしているなと思ったら、話し相手はサンジだったらしい。そういえば早弁したから昼食うメシがねえなんて騒いでいたっけ。
しかし大学そっち退けで律儀にルフィに弁当を届けるサンジもサンジだ。授業も終わった頃、なんていうのは嘘だろう。どうせ願ってもいないルフィからの電話にぴょんぴょん飛び跳ねて大学を抜け出しては、急いで家に帰りルフィの弁当を作ったに違いない。

他のクラスの女子達がサンジを見るなり目を輝かせていた。かっこいい、素敵、誰?、ルフィのお兄さんなの?黄色い声が教室の前の廊下に響き渡った。それをウソップは遠目で見ていた。サンジはそんな女子の声には物ともしないでルフィばかり見ている。ルフィは色々な女子達に何回も同じ質問をされ、その度に「サンジはおれの同居人」「兄ちゃんじゃないよ」と同じ答えを返していた。
ルフィはモテる。水泳を覗いては運動神経抜群だし、仲間想いで優しい健気な男だ。本人は気付いていないのだろうが、秘かにルフィのファンクラブなる物も発足しているらしい。男から見てもルフィは格好良いと思える。どこかの奴等と違ってそれが恋に発展することはないがな―…ウソップは一人嘲笑した。

すると間もなくしてルフィが教室に戻って来た。ドアに目配せをすると女子達の群れは疎らになりその中心にサンジの姿はもうなかった。
「弁当届けてもらえてよかったな」
ウソップが言うとルフィは満面の笑みでおうっ、と頷いて席についた。
「サンジが来てくれなかったらおれ午後死ぬとこだった」
「いつも死んでんだろ」
「あれは寝てるだけだっつの」
偶然にもウソップとルフィは隣りの席だった。だいだいルフィはいつも寝て授業を受けているので、ルフィを起こすのはウソップの仕事だった。
五限は水泳だぞ、と誰かが声を上げた。その声で何人かの生徒がぞろぞろと教室を出て行った。皆更衣室に向かうらしい。ウソップも腰を上げた。
「そういえばルフィ水着は着れたのか?」
「分かんねえ。昨日着てねえから」
「結局着なかったのか」
「だってウソップが部屋の掃除しろとか言うから」
ルフィは口を尖らせた。掃除が終わったらあの後おれ寝ちまったんだ。ルフィは頭を掻いた。
「それにあまりうるさくするとゾロが寝られねえだろ」
「へえ、お前も少しは気遣うようになったんだな」
「うっせー。お前らはおれをガキ扱いしすぎだ」
お前らということはウソップ以外にゾロやサンジも含まれているのだろう。あの二人からも子供扱いを受けたことがあったのだろうか。詳しくは知らないが。
ルフィもようやく重たい腰を上げ二人で教室を出た。酷くルフィの歩く足取りが重いのは、水泳が苦手だからだろう。面白ほどにルフィはカナヅチだ。
「海行きてえな」
泳げねえけど。ルフィが唐突に口を開いた。
「じゃあ夏休みにみんなで行くか?」
ウソップの言葉にルフィの目が輝き出した。行く行くっ、ルフィがその場で高く飛び跳ねた。
サンジのオープンカーじゃアレだからゾロのワゴンで湘南かどっか行くか。おれ砂浜がいいぞ。お前はその前に浮輪忘れんなよ。楽しみだな二人もきっと行くよな。行く行く、絶対行く。
そんな会話をしながらウソップは、あの二人がこの予定を聞いたら喜んで食いついてくるだろうな、と思った。


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