サンジは舌打ちをしたい気分になった。
久しぶりに大学に顔を出してみればこうだ。
校門をくぐれば、バストが大きく開けた原色の奇抜な服を着た女達がサンジの周りにわんさかと群がる。きつい香水の匂いを放って、自慢のふくよかな胸を彼の腕や肩に擦り付けたその女達は、甘い声を出してサンジに縋り付いた。サンジくん次はいつ会えるかしら、この後食事でもどう?、この間はどうもありがとう、二人で海外にでも旅行しましょう、スイートの予約を入れてあるわ、あの夜が忘れられないの―…
四方八方に声が飛び交う。身体が拒否反応を起こすかのように耳鳴りがしてきた。時々女のヒールに足を踏まれる。サンジは頭に血が上って側にいた一人の女の溝内狙って右足をとばしてしまった。
いつからだろうか、こんなに無碍に女を扱うようになったのは。
普通なら女を蹴ることはおろか手を上げることさえしたことはなかった。一人一人女性を大事にして抱擁して、異性のためなら如何なる出費だって惜しんだことはない。愛されるだけその愛に応えようと思った。女が好きだった。
生まれつき生活に不自由もなく欲しいものは何でも手に入った。金だって地位だって権力だって、愛だって。
それなのに。
いつからだろうかなんて、本当は今更考えるまでもないことは分かっている。

ルフィに会ってから、ルフィを一目見た時からサンジの世界が変わった。良い意味でも悪い意味でも天と地がひっくり返ったかのように、ルフィはどんどんサンジの心を浸食していった。何をしていてもルフィが頭から離れた時などありはしない。ずっとルフィに心身捕えられていた。今までただ愛されるだけの受け身姿勢だった自分が、初めて人を愛すようになった。

何に惹かれたのかは分からない。しかし胸がなかろうが香水の香りがしなかろうが、それが男であろうがサンジには最早関係ないことだった。

一つだけ気懸りなことといえばあの緑髪の男である。瞬時にして彼もルフィのことが好きだということは分かった。しかしサンジは負ける気がしなかったし負けるなんて選択肢はハナから持ち合わせていなかった。長年の経験から、彼よりも早くルフィを振り向かせる自信があったのだ。

しかしこれだけルフィ以外のものには何一つ興味を示さなくなっても、女は毎晩のように抱いた。その女が毎回同じ人物なのか違う人物なのかは知らないが、携帯に引っ切り無しにかかってくる数々の携帯番号を見る限り、サンジはとっかえひっかえ色々な女を抱いているらしかった。というのも、ルフィに会ってからというもの情事中に女の顔は見ないようにしているからだ。それは言うまでもなくその女とルフィを重ねているわけで、なるべく頭ではルフィの身体を想像して女を抱いていた。女に言わせたらサンジは最低な男と罵られるのだろうが、有り余る性欲は一人ではどうにもできないのだ。

するとジーンズの尻ポケットに入っていた携帯が震えた。サンジはそれを手に取り発信元を確認した。
『着信中 ルフィ』
どきんとサンジの心臓が撥ねた。サンジは女の間をかき分け、携帯を握り締めて大学とは反対方向に走り出した。大学の校門を出て大学生の人ごみが遠くなったのを確認してサンジは通話ボタンを押した。すぐに、サンジ腹減ったよという愛しい人の声が聞こえた。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -