(都内にある、最近新しくできたマンションに四人の男がルームシェアをしていたそうな。)

ルフィは重い足取りでマンションの階段を上っていた。彼はルームシェアをしている四人のうちの一人であった。
ああこんなんだったら最初からエレベーターを使えばよかった。ルフィは思わず舌打ちした。エレベーターが地上へ戻ってくるのを待っているより、階段を上って家へ向かった方が早いと思ったのだ。しかしよくよく考えてみれば部活で酷使した体で、何百もの段差を越えて行くことは容易ではなかった。
1301室。ルフィ達の家だ。ルフィは鉛のように重くなった足を無理に動かしようやく階段を上り終わった。家の扉の前に立ち鍵を開けてドアを開ける。途端に夕食の良い香りが鼻についた。
「今日のメシは何だっ」
ルフィの第一声にしかめっ面で台所から顔を出したのは、大学生のサンジだ。
「ただいまぐらい言わねえかクソガキ」彼もまたルフィのルームメイトの一人である。
「だってすげえいい匂いしたから」
「普通のパスタだよ。早く手ぇ洗ってこい」
ルフィは玄関に靴を脱ぎ捨てて洗面所に向かい手を洗った。同居したての頃は靴を揃えろだの洗面所の水を出し過ぎるなだのサンジにいろいろ怒られたが、最近は滅多になくなった。それはルフィが行いを改良したのではなく、サンジが諦めたのだ。もうこいつには何を言っても無駄だと。
洗面所から戻ると、リビングのテーブルには先客が一人いた。美味しそうにサンジ特製のパスタを頬張っている。同じ高校に通うウソップだ。サンジと同じく彼もルフィのルームメイトでありクラスメイトでもある。ウソップがこちらに気付きルフィにおかえりと声をかけた。ルフィもただいまと返した。
「今日は遅いメシなんだな」ルフィは言った。
「俺も部活があるんでな」
「帰宅部だろ?」
「れっきとした部活だろうが」
どうせ今日もゲーセンでシューティングゲームでもやってきたんだろ。ルフィがそう言うとウソップは図星だと言うように小さく笑った。
どっかりとテーブルの椅子につくと、山盛りのパスタが運ばれてきた。早急にフォークを使ってそのパスタをめい一杯口に含んだ。よく噛んで食べろ、と言うサンジを見て見ぬ振りしながら口を動かす。
先生言ってたぜ。ウソップが口を開いた。
「お前は陸上部の期待の星だって」
「何を今更。そんなの毎日聞かされてるよ。」
「俺も一回ぐらい嘘でもいいから聞かされてえな」
あの学校に弓道部さえあればな。ウソップは部活の話になると決まってそう言う。狙撃の腕に自信はあるのだがそれを発揮する場がないといつも嘆いていた。もともと在校生の数も多くないルフィ達の高校に弓道部という部活はなかった。
すると玄関の戸が開く音がした。ただいまも言わず無言で家に帰ってくる者など一人しかいない。サンジもそれを察し、キッチンに戻ってコンロの火を点けパスタを茹で始めた。
おかえりゾロ。ルフィは言った。玄関を過ぎリビングに入ってきた男はルフィを見て、小さくただいまと言った。紺色のスーツをきっちり着こなした緑髪のサラリーマンであるゾロもまた、ルフィとルームシェアをしている男の一人だ。ゾロはスーツの上着を脱ぎテーブルに座ると、開口一番くせえなと小声で言った。
「何が?」
ルフィが目を丸くしてゾロに問いかけた。
「この部屋だよ。いやな臭いがする」
そう言ってゾロはサンジに目配せをした。サンジはばつが悪そうな顔をして煙草をふかしていた。
サンジには女癖が悪いところがあった。彼は決まって、部屋に自分以外の者がいないとなると大学の女友達を呼んでは情事に没頭していた。だからそんなことがあるといつも部屋のリビングは情事後の特有の臭いが立ち込めているのだ。
「リビングでやるなつってんだろうが」
ゾロがどすの効いた低い声でサンジに言った。サンジは、部屋でやろうが臭いは漏れると首を横に振った。
「ホテルに行く金がねえ訳でもねえんだろ」
「やりたいときにしたいものさ。気分が萎えちゃセックスも時化る」
サンジの言葉にルフィが「またサンジはせっくすしたのか」と声を上げた。そんなルフィをウソップは宥めながら頼むから喧嘩だけは止めてくれよと言った。以前ゾロとサンジが喧嘩をした時は、家中の家具がひっくり返り壁に穴が開き床が抜けるという大惨事になった。原因はくだらないこと極まりなかったのだが。
ゾロは溜め息をついて運ばれてきたパスタに手をつけた。何とか大きな喧嘩にはならなかったとウソップは安堵の息を漏らした。


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