陽が暮れかかった頃、ようやくサンジ達は帰路についた。いつまでたっても海から上がろうとしないルフィを説得するのは至難の業だった。時間の関係や彼の体調などを気遣ってもルフィは聞く耳を持たず、結局「帰りに焼き肉屋へ寄って食い放題を頼もう」とまた食べ物で釣ってどうにか彼を海から引きづり上げた。

車のハンドルを握るサンジの横で、ゾロが薄く目を開いて前方を眺めていた。後部座席に座るルフィとウソップは大口を開けて眠りこけている。少年二人が黙れば車の中はいたって静かだ。
その二人に倣うようにサンジも黙って車を運転していると、不意にゾロが「この前よ」と口を開いた。
「家帰ったらあいつ風呂場ですっ転げてた」
返事もしなければ相槌も打たない。しかし話を聞いていない訳ではない。
「精液くせえわケツ血まみれだわ、ひでえ身体してたぜ」
ゾロの言葉でサンジの体温がさーっと急降下した。
できれば一生思い出したくなかったあの日、ゾロは事後のルフィを見たというのか―…あの後は後始末も片付けも全てルフィ一人がしたのだとばかり思っていた。きつくきつく封をしていた重い扉がまた少しずつ開いていくような感覚がサンジを襲う。
「何でだと思う」
ゾロの視線がちらりとサンジへ向けられた。しかしそれは一瞬で、すぐにまた前方へと戻っていった。
「女でも呼んだんだろ」
わりと自然にあっさりと答えることができてサンジはほっと一安心した。男に犯されたんだろ、と言おうかと思ったがそんなことを言ったら、まるで「ルフィを犯したのは俺です」と自首しているような気がしたのでやめた。
それ以上ゾロは何も言ってこなかった。もちろんゾロだってルフィが女を呼んだなんて信じている訳でもないだろう。―…そうだ、別に妙な節介なんて必要ない。
(こいつだって気付いてんだ。ルフィが男にやられたことぐらい)
「…うし、決めた」
ゾロがまた声を上げた。先程よりも芯の通った低い声だった。
「今夜ルフィに告白する」
その低い声はサンジの左耳から入って脳にべちゃりとこびり付いた。味のなくなったガムを吐き捨てられた気分だ。運転中にも関わらず、サンジは少し眩暈を覚えた。
「あいつは俺が守る」
それ以来二人押し黙り、また車に静寂が取り戻された。サンジの眩暈は止まない。
俺だってルフィが好きだ。俺だってルフィを守りたい。俺だってルフィに愛されたい―…しかしそんな言葉がサンジの口から出る筈がない。ルフィを傷付けた張本人が、今度はルフィを守りたいだなんて都合が良いにもほどがある。きっとルフィだって呆れるだろう。愛し過ぎたあまりに起こした行動が仇となって自分へ返ってきた。自業自得だ、サンジは自分に言い聞かせた。あんなことをしておいて、しかし今普通に彼と接することができるなんてきっとまだ救われた方だ。
もう何も望まない。ルフィが幸せになることを願うだけだ。ゾロとルフィが結ばれると決まった訳ではないが、サンジの頭の中では既に幸せそうに笑う二人が容易く想像できた。


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