夏というのは実に日が流れるのを速く感じる気がする。もうあっという間に今日は日曜日だ。ウソップは助手席に座り大きな欠伸を噛み締めた。
よく晴れた良い天気に恵まれて、ウソップたちはゾロのエルグランドに乗って、毎年若者で賑わう砂浜の海へと向かった。ちなみにこのゾロの車は昨年購入したもので旧型だが、いかせん毎日乗る者はゾロしかいない。しかも仕事の行き来にしか使わないので内外共に新車同様だった。こんな大きなワゴン車を一人身の男が購入するのも珍しいだろう。内装は黒を基調としたデザインで、四人の男が乗っても広々としている。
ウソップはゾロが運転するのを見つめながら神経を尖らせていた。ゾロは荒いところもあるから事故を起こさないだろうかとか、ちゃんとカーナビを言うことを聞いてくれるだろうかとか…心配ごとは沢山ある。
『そのまま直進して下さい』
「ゾロ、ここはずっと真っ直ぐだぞ」
「分かってるようるせえな」
念の為にとウソップはカーナビが言ったことを繰り返してゾロに念を押した。一瞬でも目を離せば道なき道を進んで行ってしまいそうで怖い。
後部座席ではサンジとルフィがワイドモニターでアニメのDVDを食い入るように見ている。出来ればこの助手席を交代してほしかったが、ルフィはあてにならないしサンジはルフィの横から離れたがらないから、ゾロが運転席にいる以上この役目はウソップしかなかった。

何十分か車を動かすと微かに海が見えてきた。まだお盆前なので人は疎らだが、それでも夏特有の賑やかさを醸し出している。駐車場に車を停めて、パラソルやレジャーシートなどを荷台から運び出した。ルフィが腹をすかすだろうと思い、海の家近くにパラソルを立ててそこを四人の拠点とした。
「うほー!海行ってきていいか!」
「ちゃんと浮輪持ったか?」
ゾロの言葉にルフィはあっ、と声を上げて頭を抱えた。それから小さな声で「忘れた…」と呟いた。
「浮輪忘れたってお前それじゃあ一人で海に入れねえじゃねえか」
ウソップが呆れ顔でレジャーシートに尻を落とした。
「どうしよう!」
「どうしようもこうしようも…」
するとゾロが一歩二歩とルフィに近付いてその手を引いた。
「ルフィの面倒なら俺が見る」
間髪入れずサンジが「は?!」と抗議の意を示したが、ルフィが「ありがとうゾロ!」と声を弾ませたのでそれ以上は何も言わなくなった。
ゾロとルフィが海へと歩を運ぶその背中を見ながら、サンジは肩を落としてウソップの横に腰を下ろした。不機嫌そうに顔を歪めて煙草を咥える。ウソップは何か声をかけようとしたがかける言葉が見つからず、結局その場に膝を抱えてサンジの横に居座った。
岸近くでルフィが楽しそうに水と戯れているのが見える。ふと彼がこちらに目をやると、両手を大きく上げて笑顔で手を振った。太陽の日射しで輝いた少年の笑顔は美しく映える。ウソップがそれに応えるように小さく手を振り返した。ちらりとサンジの横顔を盗み見すると、先程までの不細工な顔を何処へ、鼻の下を伸ばして幸せそうな顔をして大きく片手を上げていた。


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