歩くのもままならなかったくせに風呂から上がったとたん家を出ていくから何したんだかと不安になっていた矢先、日が暮れ始めた頃にルフィはサンジに担がれて家に帰ってきた。ゾロが飛んでいくように玄関に行ったけれど、ルフィと一緒にいたサンジを見て少しばかり肩を下げて一人リビングへ戻ってきた。
「うげーだりぃ」
「はいはいおねんねしような。お粥は今食べるのか?」
「今食うー」
そう言いながらゾロより遅れてリビングに入ってきた二人を見て、ウソップは少し身構えた。何せあんなルフィとあの部屋に落ちていたサンジのネクタイを見てしまっていたし、サンジだって急に海に行かないなどと言い出すから、あの二人に肉体関係が生まれたのだと思えてならなかったのだ。
「サンジぃ、おれ卵粥がいいな」
しかし今はもう、あの時蒼白の顔で怯えるようにしてルフィの口から出た「サンジ」という名前の面影を感じさせないほど、ルフィの態度はいつもと変わらない。ルフィの強請りにはいはいと満面の笑みを浮かべてキッチンへ行くサンジも、幾分か前にルフィに弁当を届けに学校へ来たサンジと同じ顔だ。
(やっぱ俺の思い過ごしなのかもしれない)
そうだ。だってあのサンジのネクタイが情事中に落ちたものとは限らない。もしかしたら看病中にぽろっと落ちてしまった可能性もあるし、それにサンジはずっとルフィのことを大事に思ってきた筈だ。無理矢理ルフィを襲うなんてこと、きっとできない。そうだ。きっとそうだ。ルフィとサンジの間には何もなかったんだ。それを今の二人が証明している。何かあってからの二人じゃこんなすぐに普段通りになんて戻れないだろう。
(ルフィはきっと他の女でも連れ込んだんだ。結構淡白に見えるけど、やっぱルフィも男だし―…)
「おいウソップ」
目の前に座っていたゾロに声を掛けられ、はっと現実に帰った。
「あっ、な、何?」
「マユゲが晩飯何がいいか聞いてるぞ」
ゾロはキッチンに目配せをした。サンジが仁王立ちをしてキッチンからこちらを見ている。
「えっ、ああ、晩飯ね。そういえば腹減ったなあ」
あれからずっと二人のことを考えていたから、晩飯のことをすっかり忘れていた。自分は料理なんて一つもできないから、仕方なくサンジの帰りを待っていたんだっけ。
都合よくぐうと鳴った腹を押さえながら、どうしようかなあと呟いた後これといって食べたいものが浮かんでこなかったので何でもいいと答えた。何でもいいが一番困るんだよとぶつぶつ言ったサンジだったが、数分もすればすぐに前菜を出してメインディッシュのラザニアやグラタンを運んで来るから本当に彼の料理の腕は凄いと思う。
「わあ、めっちゃいい匂いすんじゃねえか!おれも食う!」
「てめえはお粥食ったらとっとと寝ろ!」
豪華な食事の匂いに誘われて部屋から出たルフィの顔を一蹴りして、サンジはその部屋の扉を閉めた。
ルフィがいなくなればこの家は常に静寂が保たれる。
(何だか今日は一段と疲れた…)
やはり考え過ぎはよくない。ウソップは目の前の皿に手をつけてぼんやりと思った。お盆近くになればバイトも忙しくなる。それまでに体力をつけなければいけない。今日は早めに寝ることにしよう。


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