家のドアを開けたら、またこれだ。ゾロは立ち籠るその臭いに頭が痛くなった。あの下衆、何度同じことを言われれば気が済むんだ。

靴を乱暴に脱ぎ捨ててリビングに向かおうとした廊下の途中、風呂場からばたんと大きな音がした。怪訝に思い風呂場を覗くと、毛布を被ったルフィが苦しそうに呼吸を荒くして倒れていた。
「ルフィ!」
ゾロは頭で考えるよりも先に行動に出た。急いでルフィを抱き起こして、子供もあやすように背中を擦った。顔は朱に染まっていて、それでも目だけは酷く虚ろで生気がなくて、身体はがくがくと大きく震えていた。
「…ぁ…ぞ、ろ…、お、かえ…り…」
虫のような声でルフィが必死に言葉を紡ぐ。弱々しい少年を抱き締めようとして身を屈めると、ゾロははっと息を呑んだ。
こいつからする、臭いが。
まさか―…ゾロは首を横に振る。そんな筈がない。こんな無垢な少年があんな下衆と同じような節操の悪い人間な筈がない。
「ルフィ…これから風呂に入るつもりだったのか?」
「ん…、そう、あ、大丈夫…一人で入れるから」
ゾロの腕から離れようとしたルフィがバランスを崩しまた床へばたんと落ちた。はあはあとルフィの息は上がるばかりだ。
「馬鹿か。そんなんで一人で風呂になんか無理に決まってんだろ」
「でも、…」
ルフィは立ち上がろうとしたがすぐに腕ががくんと折れてその場にへこたれてしまう。それを見兼ねたゾロは軽々ルフィを抱きあげてシャワー室へ入った。足元に優しくルフィを寝かせて毛布を全部剥ぎ取ると、そこには彼の裸体があってゾロは驚いた。
「こっ、これは、あ、暑くて、それで、…なにも、着ないで、寝てて」
ゾロに何か言われるのを恐れたようにルフィは慌てて口を動かした。彼は全く目を合わせようとしない。視線をぐるぐる泳がせて自分の下半身を手で隠した。ゾロは何も言わなかった。
スーツのジャケットと毛布をシャワー室の外に放り投げてから、シャワーの栓を捻った。温かいお湯でルフィの身体を流して、タオルでボディーソープを泡立てた。
一通り身体を洗ってルフィから嫌な臭いを落とした。太股を洗おうと膝の裏を持ち上げると、彼の身体がびくんと大きく震えた。ルフィは瞬時に足を固く閉じて身を硬直させた。
「…足はいやか」
「ごめん、あの、そういう、意味じゃねえけど…、あの」
「ああ、うん、言わなくていいよ。分かったから」
ゾロはルフィに泡のついたタオルを手渡して腰を上げた。
「足は自分で洗え、な?俺は外で待ってるから、終わったら呼べばいい」
ルフィは安心したように眉を下げて、うんと返事をした。ゾロはシャワー室を出てしっかりとその扉を閉めた。水びたしになっていた自分の足や腕を拭く。
(…くそ)
不意に見えてしまったルフィの太股の血痕がフラッシュバックする。あんなところに血がつくなんて良からぬことしか想像できない。ゾロは頭を掻き毟りたい衝動に陥った。どこの誰がルフィにどんな手荒な真似をしたのか想像するだけで血がざわざわと騒ぐように腹が立つ。脳が燃えるようだ。混み上げる怒りを拳に込めて思い切り風呂場の壁を殴った。鈍い音を立てて壁が惨く陥没した。


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