ウソップは今だにサンジの言ったことが信じられなかった。どこの口から俺も海に行かねえなどという言葉が出てくるのか。当初はあんなにも笑みを浮かべながら、ルフィの提案に乗ってきたっていうのに。
(変だな)
しかしルフィは寝込んでるし、サンジは風呂から上がったらすぐに家を出て行ってしまったから、聞くにも聞けない。サンジなんて、普段だったらこれから夕食を作る時間なのに一体どこへ行ってしまったのだろう。それにもうすぐゾロが帰ってくる。

(…ああ、臭うな)
極めて信じ難い事実ではあったが、確実にこの家の中に男の精液の臭いが充満している。ルフィの部屋の前を通ると、それは更に著しくなる。それが重なってか、ウソップは流れるようにしてよからぬ想像をしてしまう。サンジとルフィの間に、何があったのか。
すると部屋からごそごそという音ともにルフィが出てきた。酷くだるそうに頭を垂らして、暑いのにも関わらず全身を毛布で包むように隠している。歩くのもままならないような情けない足を、床につけながらずるずると一歩二歩動かした。ふと視界にウソップの姿が入ると、あ、という声を漏らした。
「…ウソップ…」
帰ってたのか、と掠れた声でルフィが言った。その口には涎の跡がたくさん残っていた。
「あ、ああ、ついさっき」
「…そっか、…あ、あの、…サンジは…?」
怯えるような小さな声でルフィが聞いた。突きつけられたその大きな目は真っ赤に充血している。
「サンジなら外に出て行ったけど…、お前、その」
何かあったのか、とは聞けなかった。その、えっとと情けない声をぼそぼそと上げて最終的には「風邪は治ったのか」などと関係のない質問をしてしまった。
「まだ少し、だるいかな」
ルフィが首をへし曲げて不完全な笑みを浮かべた。
「ちょっと風呂に入ってくるよ」
「ぁ、ああ、気をつけてな」
「うん、ありがとう」
そのままルフィは足を引き摺ったまま風呂場へ向かった。一人では歩けないようで、肩手を壁に沿えてまるでお年寄りのようにゆっくりと足を進めていた。
(…何があったなんて)
最早聞くまでもないってか。
ウソップはルフィが風呂場に入って行ったのを確認してから、椅子から腰を上げてルフィの部屋に入った。独自の臭いが鼻についていやな気分になる。部屋を見渡すとベッド以外は普段と何ら変わりもしないルフィの部屋だった。そうベッド以外は。
ベッドのシーツはぐしゃぐしゃに乱れていて、所々に赤い斑点が窺える。ティッシュの屑がそこらに落ちており、つい先程までの情事を強く物語っていた。
そして微かに煙草の臭い。どこかでよく嗅ぐ臭いだな、と思えばこれはサンジの愛用している銘柄だった。すると足に何か引っ掛かる物があった。見るとそこには今朝サンジがしていた水色のネクタイが転がり落ちていた。ウソップは全身の体温が下がっていくのを感じた。


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