俺は過保護なのだろうか。その答えは半分イエスで半分ノーだ。何年か前から気付いていたことだが、俺はルフィのことがが好きだ。それは弟として、そして一人の男として。俺がルフィを気にかけることはただ単に兄としての責任を感じているからだけではない。好きな奴がどこで何をしているのか気になるのは当然なわけで、今日学校であいつは誰に、何をされたのか、俺は毎日そう考えるだけで気が気でならない。

そんなルフィの学校ではもうすぐ体育祭が始まる。放課後には居残ってクラスメイトと競技の練習をしているらしい。(そのおかげかいつになく持って帰ってくる怪我の数が半端ではない。)
それから原因は分からないが彼が話す「シャンクスの話」が以前と比べてとても多くなった気がする。体育祭が近いから担任と関わる機会も多いのか、最近は開口一番シャンクスシャンクスだ。聞いてる分には何も不満はないのだが、やはり何だか良い気分はしない。好きな人から他のヤツの話が出るなど普通なら耐えかねないことだ。いや普通でなくても耐えかねない。
高校から帰ってきた彼にいつも通り大量の夕食を与える。二人で食事を摂っていればまた彼の担任教師の話が爆弾のように俺に投げつけられる。
「でな、シャンクスの足がめっちゃ速くてな」
「そんで力持ちだし、かっこいいよな」
「そういえばこの前シャンクスと腕相撲したんだ」
「俺も髪赤く染めようかな、なーんてな」
「そうこの前エースがバイト長引いて迎え来れなかった時シャンクスが家まで送ってってくれたんだ」
「シャンクスいるし、今年は俺らクラスが優勝するよ」
とまあこんな具合だ。俺はうんうんそうかそうかと空返事を繰り返しているが、内心ではもう腸が煮えくりそうなくらいの嫉妬の渦が脳を浸食している。
しかし思えばまだこれは耐えられる域だったのだ。数日こんな状況が続いていたある日、学校から帰宅したルフィが信じられない言葉を発したのだ。
「今日シャンクスにキスされたんだ」
俺は耳を疑った。この時は流石にうんもそうかも言えなかった。一時停止ボタンを押されたようにフリーズし、ようやく俺の口から出た一言は「もう寝なさい」だった。意味が分からないと言ったルフィを無理矢理寝室に押し込んで、俺は無い頭で色々と考えた。辿りついた答えはルフィはシャンクスのことが好きだということだった。シャンクスが好きだからあの男の話ばかりする。それはきっと俺が他人にルフィのことをたくさん言いふらすのと同じように。そしてこれは俺の憶測だが、多分シャンクスもルフィのことが好きなのだ。
不思議なことに闘争心は芽生えてこなかった。ルフィが俺に惹かれなかったのは俺に魅力が足りなかったからだと思うことにした。悔しいけれどそれが彼の選んだ相手となれば致し方ない。
もう迎えに行くのはやめよう。俺は心に決めた。これからはシャンクスがルフィを家まで送っていくことになるのだろう。別に俺がいなくてもルフィは帰ってこれるわけだ。そうだ、最後の見納めとして明日あの男に会いに行こう。もう一生会うことはない。最後に一目、ルフィが惚れた男とやらを見ていきたいのだ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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