〔日曜日〕

せめてあともう一日だけでも早く自分の気持ちに気づくことができたら、何か互いの間で変化があったかもしれない。頭の中をきちんと整理した状態で、自分の気持ちを伝えることだってできたかもしれない。とそんなことを思っていてもそれは後の祭りで、あっという間に日曜日も夜を迎えてしまった。
昨日はあれからルフィは部活に行ってしまい、休暇をとっていた自分は自宅で一人寂しく過ごしていた。ルフィが遅くに帰ってきたあと、初めて二人で夕食を共にしたが何ともない話を二つ三つしたところでそれは幕を閉じた。何か彼に言葉をかけるにしても一生懸命言葉を選んでいる自分がいる。何だか気持ちの悪いほど女々しくなってしまった自分に嫌気がさして、マルコはソファで眠りについた。今日はというとルフィもマルコも日中休日であったが、ルフィは昨日の部活で疲れたのか、昼まで布団から出ては来なかった。起こしに行こうとしても寝込みを襲うようで気が引けてしまう。つい最近まではルフィを起こしに行くことなど何の躊躇いもなかったのにー…。昼過ぎに起床したルフィは、何もすることがないので何かしたいと言い出したので、二人で近所のレンタルビデオショップに行き映画のDVDを何冊か借りてそれを自宅で見た。DVDは全部彼に選ばせたが、全部韓国のアクション映画もので少しマルコにはつまらなかった。しかし横で目を輝かせながらテレビ画面に食い入るルフィを見ていると、それだけで心が満たされたので映画を見ている時間は苦ではなかった。それからまた同じような映画を続けて見ると、彼は眠くなったのかソファで昼寝をし始めた。再び時間を持て余すようになってしまったマルコは仕方なく周りの書類を片付けることにした。とういうもののあまり手が進まなかったのは、平気で腹を出して眠りこけていたルフィの所為にしておく。

「エース何時にくんのかなあ」
ソファの上で体育座りをしたルフィは缶ジュース片手に呟いた。あれからルフィが起きたのは夕方の六時頃で、その後夕食をとるなり何なりしていたらすぐに八時過ぎになってしまった。今日は何でこんなに時間が経つのが早いのだろうと、マルコは腕時計を睨んだ。
「もう日本に着いたかなあ」
「それよりお前、風呂はどうすんだよい」
「今悩んでる」
「悩んでる間に入っちまえば?」
今の言葉は素っ気なさすぎただろうか。と少し不安になったが、ルフィは特にマルコの言葉を聞き入る様子もなく、うーんうーんと唸っていた。
「…お前が入らないなら俺が先に入るぞ」
「えっ、待てよ、おれも一緒に―…」
とまで言ったルフィにマルコは服の裾を掴まれていた。ぎょっとしてルフィの方を向くと、彼の顔は昨日の朝のように真っ赤に火照り上がっていた。マルコは今世紀最大の期待を胸に抱いた。何?と半ば震えたような声でルフィに問いかけると、ルフィは左右に首を振って下を向いてしまった。洋服の裾を掴んでいた彼の手を取ると、リビングを出て風呂場の扉の前へ導いた。
「…ルフィ」
「…なんだよ」
「…お前をエースに返したくないよい」
少年の反応を見ぬままマルコはルフィの腕を引いて彼を抱き締めた。彼の心臓の鼓動が直に右胸に伝わった。自分もこんなにどきどきしているのだろうかと想像するととても恥ずかしい気持ちになった。ルフィの身体はあの日とは打って変わってとても温かった。
「…一緒に風呂入るか」
「…入る」
ルフィの腕が自分の腰に回った。こんな二人の姿をエースが目撃したらどう思うだろう。自分は今友人の弟をものにしようとしている。怪我をさせたの比ではないくらい怒り狂うはずだ。
だがそれでも構わない。
どれだけエースに怒られようが泣かれようが知ったことではない。今はただルフィを離したくなくて仕方がない。それでルフィを自分のものにできるのなら、どんな罵倒にだって暴力にだって耐えてやる。
するとインターホンが激しく鳴りだした。とうとう兄が弟を迎えに来たようだ。腕の中のルフィが「エース」と声を上げたが聞かぬふりをした。玄関の鍵は厳重に閉めてある。問題ない。マルコは煩く鳴り響くインターホンを背中に、ルフィの手を引いて風呂場の戸を開けた。


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