学パロ


放課後のグラウンドは野球部の掛け声だったり陸上部のピストルの音だったりでいつも賑やかだ。早くおれも部活に行かないと、と少し焦る。ぼんやりと窓の外を眺めていると、頭をばこんと教科書で叩かれた。
「なに余所見してんだバカ」
どすの効いた低い声でシャンクスに一喝される。おれは渋々再度机に向き合った。時計にちらりと目を配る。午後六時。ああもう部活が終わってしまう。
誰もいない(目の前にシャンクスはいるが)教室で部活も出れずに何をやっているかというと、いつものことではあるが模擬試験の成績が悪かったので居残り補習をしているのである。学期末のテストじゃ毎回赤点だから担任の先生は既にもうおれに見切りをつけたけれど、学年主任のシャンクスは今だ小まめにおれの世話をしてくれる。
「お前何も進んでねえじゃねえか」
「手が疲れた」
「そんなことは手を動かしてから言え」
おれはプリントに目を落とした。小さな文字がつらつらつらつらつら…目が回りそうだ。途端に眠気も襲ってくる。しかしこんな所で寝たら後でシャンクスに何を言われるか分からない。必死に文字を目で追うが、全くもって頭に入ってはこなかった。
「先生」
「ん?」
「部活に行かせてくれよ」
「それが終わったらな」
シャンクスは机上のプリントを指さした。
「明日やるから」
「お前それ何回目だ?」
「でもだって、大会が近くて、顧問の先生だって怒ってると思うし」
「そう言って補習抜け出したいだけだろ。だめだ。俺は甘やかさねえぞ」
ぴしゃりと言われおれは何だか情けなくなってきた。この補習も初めてというわけではない。もともと勉強なんて性に合わないおれは、補習の度に何とかここから抜け出す方法はないかとひたすら考えていたものだ。
「顧問の先生には俺からちゃんと言っておくから、あと少し頑張れ、な?」
シャンクスは今度は優しくおれの頭を撫でた。そう優しく微笑みかけられればおれが何も言えなくなるのを知っているから、シャンクスは本当にずるい大人だと思う。大会が近いなんて、顧問の先生が怒ってるなんて全部出任せだって分かっているくせに。
ずるい大人でもタチが悪い。アメと鞭の悪用だ。そんなものに簡単に引っかかってしまうおれもおれだけれど。

相変わらずプリントの問題は理解不能だった。しかし何とか苦し紛れにシャンクスに教えてもらいながら全問解くことができた。終わった頃にはもう時計は午後八時を回っていた。当然部活は当に終わり、携帯には兄からの何件もの着信があった。早く帰らないとまた怒られてしまう。
机の上のものを全部鞄に詰め込んで急いで下校の支度をした。席を立ってシャンクスに別れを告げようとすると腕をがっしりと掴まれた。おれが怪訝な顔をすると、俺の家寄ってくだろ?とシャンクスが上目遣いをした。途端、手の内で携帯が光り出した。兄からの電話だ。どうやら相当心配しているらしい。おれが携帯を開いて通話ボタンを押そうすると、すぐにシャンクスに携帯を取り上げられ教室の床に放り捨てられた。がしゃんと携帯の画面が割れた音を聞いたのと、彼の腕に抱き竦められたのはほぼ同時だった。


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