海軍城塞インアニメ


男はおれと同じ目の高さになるように膝を曲げて、床に尻をついていたおれの頬にそっと触れた。親指でそっと目下の傷をなぞると、その手は首筋から鎖骨へと移動した。手付きは酷く手慣れたもので厭らしい。
「ゾロを返せ」
だがしかし男に触られたぐらいで動揺するおれじゃない。おれは変わらぬ表情で口走った。
この世には異様な文化が発達していることだっておれは知っている。同性に恋をしたり、性欲を感じたり。全部、サンジに教わったことだけれど。
「まあそう焦るなよ」
自分が女より男の方を惹きつけやすいということもサンジに教えてもらった。嬉しくなかったけど嫌とも思わなかった。どこからが「好き」になるのか分からない自分には仕方のないことかもしれない。
鼻の下に立派な髭を伸ばした栗色の髪の男。ご丁寧に挨拶までしてくれたけど、おれにとっては要塞のオッサンでしかない。その男がまた一歩とおれに身を寄せた。後退りをするも背中にはもうぴったりとドアがくっついてしまっている。
「抵抗しないのか」
「抵抗したらゾロの居場所教えてくれんのか」
「何だ、可愛くないな」
鎖骨に置かれていた手がどんどん下へと持っていかれる。腹筋に沿うようにして腹から腰を擦られて、思わず身震いしてしまう。声を出すまいと必死に噤んだ口許から吐息が漏れた。
すると男がすくっと立ち上がった。何をするのかと思えば、突然足の靴底でおれの股間をふんづけた。どすっ、という鈍い音がする。咄嗟の出来事に思わず大きな声が出てしまう。
「ア、ぃっ」
男はまるで煙草の火を揉み消すようにぐりぐりとおれの股間を押し潰した。あまりの痛さで額に汗が浮かぶ。辛うじて男の足首を掴んだがろくに力も入らない。全身が痺れるようだ。ああこれだから男は。
「威勢が良いのは口だけか小僧」
「は、はなせっ…!」
言われて気付いたかのように空っぽの言葉を吐く。威勢なんてそんなもの微塵も残っていなかった。
すると後ろのドアが勢い良く開けられた。体重を任せる場所がなくなって少しばかり後ろのめりになると、襟を掴まれ部屋の外へ摘み出される。反射的に顔を上げると同時に鼻についた煙草の匂い。
「馬鹿かお前は!早く逃げるぞ!」
「…サンジ」
煙草を咥えた彼はいつものスーツ姿ではないけど、おれは心底安心して肩に込められていた力がどっと抜けた。
襟を掴まれたまま食堂を抜ける。後ろを振り向いたらあの男が追っているような気がしてならなかった。賑わう食堂の海兵たちの声が遠くなっていく。
おれは心が締め付けられるような思いになって、ぎゅっと彼の腰に抱きついた。自分で走れと頭を叩かれたけれど聞かない振りをした。


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