点滴がぽたぽた落ちる。ピッ、ピッとどこかで機械の動く音が聞こえる。身体が思うように動かない。寝返りを打とうとしたら腕に巻かれた包帯が少し解れた。
すると、ばたんと扉の開く音がした。音の方に首を傾ける。
ああ、やはり。
立っていたのは不健康な顔立ちの医者と名乗る男。初対面ではない。まさか二度目の再会が彼の船の中だなんて、初めて目を覚ました時はびっくりして一瞬現実を疑った。そう名前は確か
「ロー」
「気分はどうだ」
まだ意識がぼんやりとしている。腹が減った気がするが、今の自分の喉に何かものが通れるとは思えなかった。まだ全身が痙攣したりするし寒気に吐き気も少々。しかし全ての症状を口で言うのも億劫だった。
「だいじょうぶ」
辛うじて発した言葉は随分と情けない大丈夫になってしまった。ローはベッドに歩み寄り、おれの上にかかっていた布団を剥がした。それから「包帯を換えるぞ」と言って腕から丁寧に包帯を解いた。赤黒く腫れたり、青黒く陥没したりした惨くて酷いおれの腕が徐々に露わになる。おれは本能的に顔を自分の腕から背けた。
「怖いか」
「…見たくないだけだ」
「こんなにしてまで救いたかった兄は死んだわけだが、な」
瞬間、ばちん、というか、びりびり、というか何とも言えぬ音を立てておれの中に電流のようなものが走った気がした。それは確実に心臓を突き刺して全身に循環した。どくどく、血液の流れる音。ばくばく、心臓の波打つ音。いやな汗が包帯の下の額に浮かぶ。
気付けばおれはローの腕を掴んでは爪を力一杯立てていた。皮膚を抉る感触がする。皮が剥がれて血が滲む。ぎろりとおれはローを睨んだ。やめろと目で訴える。
「そう、その目」
その目が気に入らねえんだ。そう言ってローがベッドに乗り込んでおれの上に跨った。今度は強引におれの胸の包帯を引き裂いた。おれはいやな予感がした。抵抗しようと身体を動かすが思うようにいかない。
「お前はこんなにも弱くて、脆い」
ローが言う。おれは耳を塞いで目をきつく閉じた。やめてくれ、もうやめてくれ。叫ぶ。しかしそれが声になっていたかは定かではない。
フラッシュバックする。血に塗れた手、赤い炎、皮膚の燃える臭い、徐々に失われてゆく兄の体温と呼吸…
震えが止まらない。ローの冷たい手がおれの下半身へと伸びていく。涙が溢れる。反動的に今は亡き兄の名前を声に出すと、思い切り唇を噛み千切られた。


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