現パロ


窓の外はどしゃ降りで、でも自分には傘がなくて、放課後の教室から出ていくたくさんのクラスメイト達を尻目に、おれはぼんやりと空を眺めた。
(雨降るなんて聞いてねえぞ)
おれは今朝の天気予報を呪った。所詮天気予報なんてこんなものだといつも思う。何だっていつも天の邪鬼…、晴れと予想すれば雨、雨と予想すれば晴れ…
何の目的もなしに携帯を開く。気紛れに待受の画像を変えてみる。最近撮った近所の猫の写真から、悩んだ挙げ句涎を垂らして寝るクラスメイトの写真にした。気晴らしになるだろうと少し思ったけれど、奇しくもそんなことはなかった。
エース迎え来てくれねえかな。しばらく携帯の画面を見つめる。いやエースは来ない、おれはそう思い返して携帯を閉じた。エースは大学があるし、大学が終わってもバイトだし、おれのような高校生みたいに暇している訳じゃない。エースにはエースの生活があって、おれにはおれの生活があって、おれだってガキじゃないんだからいつまでも兄に縋り付いているようじゃ…
(エースに迷惑かけるわけにはいかない)
鞄の中にはタオルだって入ってる。学校から家まで歩いていけない距離ではないから、少しばかりの運動だと思ってタオルを被って走って帰ろう。
制服ズボンの裾を膝までたくし上げて教室から出ようとすると、大きな身体と肩がぶつかった。ごめんと言いながら見上げると、そこには見慣れたクラスメイトの顔があった。
「あっ、ゾロ」
「よう」
一歩二歩ゾロから身を引いて、お前何やってんだよ、と聞くとゾロは委員会と短く答えた。そして、そういえば、と言葉を続ける。
「下駄箱にお前の兄ちゃんいたけど」
「えっ」
心臓が跳ねた。それからすぐに大きく波打つ鼓動。
「電話着てんじゃねえの」
ゾロの言葉でおれはポケットに手を突っ込んで携帯を取り出した。不在着信が二件。どちらともエースからだった。先程まで携帯を開いていたくせに、どうして気付かなかったのだろうか。おれは携帯をしまってズボンの裾を直した。
「ありがとうゾロ」
「はいはい早く行ってやれ」
おれは教室を飛び出して、今までの学校生活の中で一番速いであろうスピードで階段を下った。下駄箱が目に入ると、エースが傘を二本持って携帯を耳にあてているのが見えた。ズボンから瞬時に携帯を取り出す。途端に光り出した携帯の通話ボタンを押したのと、下駄箱のエースがこちらに気付いたのはほぼ同時だった。
「エース、来てくれた」
『どうせ傘ねえんだろ。早くしろ、大学抜け出して来てんだ』
そう所詮この世は、天の邪鬼。


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