外は雨が降っていた。
十月の夜はそれでなくとも寒かった。月子が少しだけ不安そうな顔で窓に寄り掛かる。亜麻色の髪が濡れた硝子に張り付く。何か出来る事は、と思う前に手を握っていた。月子はそれに気付くとその薄い唇で緩い弧を描き、指先を俺のそれに絡ませた。指先から、指の谷間へ。自分の指の方がずっと冷たかったのが何だか笑えた。

「明日は晴れるみたいだぞ」
「……よかった」

明日の為に早く寝ようと言っていたのは月子だというのに、中々布団に入ろうとはしなかった。
単純なこいつでも色々思う所があるんだろう。それは俺も同じなのだけれど。やはり不安なのだろうか。臆病で諦める事で全てを放棄していた自分は、確かに頼りないのかもしれない。有り難い事にマリッジブルーというものにはならなかったが、不安な事も幾つかあるのは事実だった。

「……琥太郎さん、」

額をこつんとぶつけられる。静かに月子は目を閉じた。

「不安ですか?」
「……わかるか」
「手を繋ぐとわかっちゃいます、私も一緒だから」

月子が背伸びを止めたのはいつだったろうか。寂しいだとか、悲しいだとかそういう言葉を自然に口にするようになって、距離が変わった。
大人だからとか、子供だからとかじゃなくて、琥太郎さんだからっていうのを大事にしたいんです。それから何年が過ぎて、形が変わって。

「今日まで沢山の事、ありましたね」
「ああ」
「沢山泣きましたし、怒りました」
「……そうだな」
「二人でおんなじ所、何度も回って。ずっとこのまんまなんじゃって不安になったりもしました。でも、いいんです。どんなに回っても前に進めるから。不安なら大丈夫って何度だって言います。ずっと手を握ってます。だから琥太郎さんも、私が不安な時は大丈夫って言って下さい。今みたいに手を握って下さい。それだけで私、大丈夫になっちゃいますから」


大丈夫の意味が変わった。我慢から、虚勢から、此処にいるという意味になった。此処で、隣で生きていくよという意味に変わった。大丈夫、大丈夫。魔法の言葉ですねとお前は笑う。違う、魔法なんかじゃない。
「……大丈夫」
「はい、」
「大丈夫だ、月子」

不可視の魔法なんかじゃない。それは確かに此処にあるんだよ。
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