「どういう事か説明して貰えるかしら、琥太郎?」


水嶋郁様
そう宛名の書かれた結婚披露宴の招待状で琥太郎の頬を叩けば琥太郎は面倒臭そうにため息をついた。我が弟ながら、いや、弟だからこそ余計に腹が立つ所もある。反省の色の見えない弟に怒りは更に煮え繰り返りここしばらく出していなかった大きな声が出た。

「真面目に聞きなさい!招待状をもう出してるのに私まで話が来ていなかったってどういう事かしら!?」
「ああ、聞いてる……父さんと母さんからの了承は得たし向こうの御両親にも挨拶して返事は貰った。姉さんはここしばらく忙しかったから連絡が遅れただけだ。何に不満があるんだ?」

当然と言わんばかりの顔をする弟を見ていたら怒りを通り越して段々自分が情けなくなってきた。
琥春姉さん、ついに琥太にぃも結婚ですねなんて郁に言われて私はようやく知ったのだ。白い招待状。姉の私より先にたくさんの人が二人の結婚を知っていた事。驚きと、嬉しさと、怒りと、やる瀬なさと。色んな感情がごちゃまぜになっていた。この歳になってこんなに感情に振り回されるなんて思いもしなかった。それくらい、私はこの弟が大切だった。

「結婚について不満がある訳じゃないのよ。私だって月子ちゃんが好きよ。前理事長として言いたい事はいくつかあるけど、私が怒ってるのは不満があるからじゃないの……ねえ、何で相談してくれなかったの?」

そう言えば琥太郎は申し訳なさそうに顔を伏せた。
マイペースでいながら他人の事ばかり考えている弟の事だ、どうせ忙しいだろうとか疲れているだろうとか、私の事を思ってだろう。それでも、と思う。唇を噛まずにはいられないのは

「忙しいのは事実よ。自分でいっぱいいっぱいで貴方に仕事を任せた事も多々あるわね。でもね、琥太郎。私、貴方の姉よ。世界で一人の血を分けた姉弟だわ。
ねぇ、何を私に気を遣ってるの。世界でたった一人の可愛い弟の為よ、疲れてようが忙しかろうが貴方の話だったらいくらでも聞けるわ。全然平気。それとも私、頼りないかしら?」

自信満々に問えば琥太郎は呆れたように、でも優しく笑ってみせた。

「……ああ、俺が悪かった。頼りにしてますよ、お姉様」
「ふふっ、それなら宜しい」

ああ、そういえば怒り心頭で来たせいで一番大事な事を忘れていた。本当は一番最初に言わなきゃいけなかったのに。

「琥太郎、」
「ん?」
「結婚おめでとう。幸せになりなさい、誰よりも」

不器用で、臆病で、そして優しい弟へ。逃げ腰の貴方が今まで諦めてきたものを、どうか今度こそ手放しませんように。そしてもう片方の手はずっとあの子と繋がれていますように。貴方の姉より、愛を込めて。




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