「で、二人の出会いはどちらで?」
「……」
「いつからのお付き合いなんですかー?」
「……耳が痛いな」
「おい錫也、お前飲みすぎなんだよ。星月先生困ってんだろ!すんません、こいつ酔うと絡みウザくて」
「哉太ぁー、ウザいって酷いだろお母さん泣いちゃうぞ」
「あー、はいはい分かったっつの」
「大体、お前は悲しくないのか!俺が、俺達が手塩にかけて育てた月子が……月子ぉおおおお、何で手を出されてしまったんだああああ」
「錫也、違うの!手を出されたっていうか……むしろ、私が手を出した?」
「ばっか、月子!お前も火に油注ぐな」
「月子ぉおおおおおお、好きだああああああ!嫁に行くなああああああ」
「錫也お前何言って……嫁、月子が、嫁に……月子、俺も好きだああああああ!」


月子の、いや月子の幼なじみ達と言おうか。こいつ等の間ではめでたい事があった時にはこうして集まって祝うのがお決まりらしかった。挨拶を済ませたら帰るつもりだったのだが、東月とその母に引き止められて集まりに混ざる事になった。こいつらの作る空間だとか空気というのに異物でしかない自分が入るのは如何なものだろうか。折角久しぶりに集まれたのだから幼馴染み同士ゆっくりと語らえば良いものを、何で俺を引き止めたのか。
大分酒が入り顔を真っ赤にした東月と七海は何かが吹っ切れたように月子を好きだと叫ぶ。きっとずっと昔からこいつの事を好きだったんだろう。まだこいつらが学生の頃、見ていてすぐに分かった。あの狭くそれでも優しい空間で東月と七海はそれぞれ抱いた感情を秘めて息をしていたんだろう。それはどんな思いだっただろう、彼等の目にどんな風に景色は写っただろうか。
ゆっくりと息を吐く。その苦しさを、俺は一度否定した人間だ。なかった事にしようとした。その事実が余計に俺をいたたまれなくさせる。

「私も、錫也と哉太が大好きだよ」
「……月子!」

折角盛り上がってるんだ、しばらく三人にやせてやろうと俺はドアを開けてベランダへと出た。
空は紫から桃色へのグラデーションで静かに風が吹いていく。駅から続く坂道を登り切った場所に立つこの家からは街が一望出来る。図書館、公園、学校。こいつらはどんな風に過ごして来たんだろう。ぼんやり考えていたらなんだか煙草が吸いたくなった。疲れた時しか吸わないのだが、たまたま胸ポケットに入っていたそれに火をつける。肺に押し込んだキャスターは何とも言い難い苦みを残す。吐いた煙はため息みたいに夕闇の中を溶けていった。

「……星月先生、風邪ひきますよ」

どれくらいそうしていただろうか。日はすっかり沈んで辺りは薄い闇に包まれ始めていた。部屋の明かりがぼんやり滲む。
酔いが醒めたのか、先程とは打って変わってすっかり落ち着いた様子の東月が俺の隣に立った。

「月子と七海は?」
「寝ました。飲み過ぎと騒ぎ疲れでしょうね」

東月は苦く笑いながら横に置いてあった箱から煙草を一本取り出すと火をつけてくわえた。

「なんだ、お前喫煙者か?」
「いえ、吸いませんよ……やっぱり苦手だ」

笑ったまま灰を落とす東月はなんだか泣きそうな顔をしていた。

「先生、後ろめたいんでしょう?」
「何がだ」
「自分が俺達の関係を壊したんじゃないかって」

図星だった。一気に吸い込んだせいで煙草は灰へと変わりほろほろ散っていく。

「当たりですよね。何となく、俺と先生って考え方似てるところがあるなあって高校の時から思ってました」
「……じゃあお前」
「知ってましたよ。高校の時から。ずっと隣に居たんです、月子が誰を目で追ってるかなんて一目瞭然でした」

東月は俺を見てにこりと笑う。

「死ぬ程悔しくて、羨ましかったです。何で俺じゃないんだろうって、俺ならそんな顔させないのにって、ずっと思ってました」
「……そうか」
「でもやっぱり俺の負けでした。月子が、すごく幸せそうな顔して笑うようになって、ああ俺じゃこんな風には笑わせてやれないんだなって」

先生、と東月は続ける。

「幸せになって下さい。すごく悔しいけど、言います。だって先生の幸せが月子の幸せなんですから」
「……ありがとう、な」
「先生は俺達の関係を壊したりなんかしてません。また新しい形に変わっただけです。今此処には居ないけれど羊がそれを教えてくれました。お陰で俺は今こうやって二人を祝えます。
……すごく友人に恵まれた高校生活を過ごせました。そんな場所を作ってくれていた先生には本当に感謝しています」
「俺は別に何もしてないぞ」
「……そんな所が、月子は好きなんでしょうね」

東月は笑う。

「ご結婚おめでとうございます」


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