「私、きれいなものが好きなの」

彼女は肩を震わせるでもなくぽたぽたと大粒の涙を落とすのだった。勿体ないなと思うのはやはり彼女の涙というか、涙の流し方が美しかったからかもしれない。背筋を伸ばし俯かず前を向いたまま、彼女はひたすら粒を落とす。俯かないのは同情をひかない為なのと呟いていたのはいつだったろうか。

「星は綺麗でしょう。だからこの学校に来たの」
「……そう。それは僕も同じだな」

この世に存在する、ありとあらゆる美しいものは努力の度合いは違うが手に入る可能性があって、でも星は違う。あんなに美しいのにあれは過去の光で、どんなに手を伸ばしても届く事はないのだ。それならせめて近付いてみたくて、僕は学園へ入学を決めたのだ。

「私、きれいなものが好きだよ。だから私も綺麗でいたいの。なのにどうして、私こんなに綺麗なものを見上げているのにどんどん汚れていく。綺麗になりたいのにどんどん汚れていく。ねえどうしてなの、教えてよ柿野くん」

彼女は僕の腕を掴んでこちらを見上げる。
どうやら僕が彼女にかけた魔法を打ち消してしまう程、恋の魔法というのは強いらしく彼女は甘い苦しみにもがいている。それも僕にとっては充分魅力的に思えるのだけど、世の男性にどのように映るかは知らない。可愛い妹のような彼女の頭を撫でて僕は微笑む。
付き合ってみようか、なんて言ったけれどきっと最初から僕たちは恋人なんて関係じゃなかった。友人とも柑子が言う姉妹とも違う酷く曖昧な、それでも相手を想えるような情に溢れた関係だった。君は素晴らしい友人であり僕の可愛い妹であり背伸びしたい年頃の女の子なのだ。僕は君の王子様じゃなくて、背中を押す魔法使いになりたい。
さあ可愛い子、顔を上げて。泣いてもいい怒ってもいい。だからどうか幸せになって。僕はその為なら君に何度だって魔法をかけよう。

「星を見上げるのが好きな僕達はいつも綺麗な物ばかり愛したがるね」
「……うん」
「でも大丈夫、君は綺麗だよ。もがいてたって醜くたって綺麗だ。それは君の容姿からくるものではなくて、内にある君の核そのものが美しいからなんだ」
「……よくわからない」
「ふふ、わからなくてもいいよ。きっと君の好きな人はわかってくれるはずだから」
「それは、本当?」
「僕の予言はよく当たるんだ」
「柿野くん、魔女みたい」
「だからほら、恋人ごっこはおしまいにしよう。僕は君の魔女なんだから」

彼女は涙を拭うとにっこり笑った。君の狡猾な笑顔も好きだけれど、単純な笑い方もとても可愛いと思うよ。

「ありがとう、柿野くん。大好きよ」
「僕も夜久が大好きだよ」




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