*捏造、ジャンル、CPごちゃまぜ注意 log


(stsk 四季と青空)




この時期の電車の冷房はどこも効き過ぎていて正直肌寒い。羽織る物も持っていないので俺は仕方なく読書に勤しんでいた。
星月学園は山奥にあり、当然そんな場所だから生活に必要な施設も多くなく買い物をするには一時間に一本出るようなバスから電車に乗り換え隣の街まで行かなければならない。只でさえ面倒だというのにこの時期は暑くて尚更面倒臭い。
憂鬱な文章に浸りながら俺は帰ったら直ぐにでも寝てしまおうと決めた。
電車は満員に近い状態で重さに軋むようにガタゴト揺れている。重なる話し声、ヘッドホンの音洩れ。俺の前に立ち、吊り革を掴んでいる人物に見覚えはあったが何やら隣人と話しているので声は掛けなかった。
同じ科、一つ上の不躾な先輩にお前は夏が似合わないなと笑われたが、俺の目の前に立つ人も夏が似合っていないと思った。蒸し暑い中汗もかかず涼しげにしているが、こういう奴こそ夏の強さに負けてしまう気がする。

―…次は、………駅

アナウンスが鳴って駅に停止する。終点は星月学園に一番近い駅で、一つ前のこの駅では殆どの人が降りていく。開いたドアから夏の夜特有の湿った蒸し暑い空気がなだれ込んでくる。ガラガラになった車内に熱気は簡単に広がっていった。そんな時だった。駅のホームからだろうか。けばけばしい模様の羽根の蛾がばたばたと床に何度か身体を叩き付けながら車内に入り込んで来た。死期が近いのか。高く飛ばない蛾は床をぐるぐる這いずり回っている。目の前の人も蛾に気付いているだろう。ふと見上げると少し疲れたような顔をしていた。右足が少し持ち上がり、そして、


一瞬だった。さっきまで床を這っていた蛾は目の前の人の黒い靴の裏に潰れてひしゃげて張り付いているんだろう。黒く光る傷や汚れのない革靴をぼんやり見つめながら俺はそこでようやく声を掛けた。

「……青空」
「ああ、神楽坂君ですか?奇遇ですね、こんな近くに居ただなんて。もっと早く声を掛けて下されば良かったのに」

どの口が言うか。能面のような白い顔にはやはり夏が似合わないと思った。

「足、」
「足、ですか?」
「蛾がいたんだ。珍しい模様の」

そこで青空はようやく足を持ち上げて、ようやく潰れた蛾に気付いたようなふりをした。
この男は綺麗な顔と優雅な笑みとで全て隠した気でいるんだろうが、人間の放つ毒のような感情に同じ人間が気付かないとでも思っているんだろうか。同じ業、同じ毒、だから知らずに吸い寄せられる。

「ああ、そんなつもりじゃなかったのに」
「……じゃあ一体どんなつもりだったんだ」

黙って見上げた顔は蛍光灯の逆光で暗かったが、硬直しているのがわかった。
沈黙が続く。地雷を踏んだのかもしれない。それでも構わなかった。
電車がゆっくりと動きだす。窓から見える黒い夜は女の髪をどろどろに溶かしたみたいで、窓硝子に映る目の前の彼はそこに沈んで行くように見えた。
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