人魚の夢


初めて地面を踏んだ二本の足は、刺すような痛みを伴ってぐらぐら揺れた。

水滴はぽとりと後れ毛から滴り落ちる。そんな気がして、頭ふたつは低い位置にある晒されたうなじを見つめた。腰を支えてやる手に縋る白く柔らかいそれは、強張っている。彼女は不安を抱えている。海のなかだけで生きてたのだ。
そんな彼女に、海から地上を繋ぐやわらかくあたたかいこの過程を教えてやりたかった。立つ。歩く。ひとの歩みを。

「大丈夫だ!俺が支えてやるから心配しねぇで歩いてみろ、な?」

真っ白な砂浜の先を知らないと、彼女はいう。重い不安を抱えたまま歩けるのだろうか、この足はあまりに心許ないのだと。
縋りつく手を引いて、笑った。
西海の鬼は海も陸も征する男なのだから、なにを恐れることがあるだろうか!彼女が憧憬の眼差しをむけた地を統べるのも、この砂浜から船を操り海を駆るのも、この俺なのだから!

漸く決心がついたのだろう。
彼女は振り切るようにさくりと砂に足を踏み出した。

「上手く出来るじゃねえか」


***

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