砂にかえる約束
×××にも左の肩にやわらかな色の星がある。DIOはその星に唇を落として後ろから抱き込んで、噛み癖で深爪になってしまった×××の爪を優しく撫でるのが常だった。
「哀れな×××、可哀想な子だ」「いとおしいイヴ」。
DIOはいつも甘く囁いた。それに特に返事をした記憶はないが、×××は拒絶をしたこともなかった。
誘拐されてからの数ヶ月をDIOと大半を過ごし、唐突に終わりを告げたそのぬくもりを求めたのは、まぎれもなく×××自身だ。「戻るまで部屋を出るな」と告げられ錠をされ、祖父か双子の兄かがDIOと対峙しているのを感じ、DIOの気配が消えたのを寝台の上で無力をのろいながら丸くなっていた。
そうして現からDIOのぬくもりとにおいが消えてしまった頃、×××を迎えに来たのは双子の兄だった。数ヶ月ぶりに会うその顔は精悍さを増し、またどこか疲れたような沈痛な色を帯びていた。
「DIOを、ころしたの」
「ああ」
感動の再会となるであろう第一声は、そんな殺伐としたものだった。まるで恋人を殺した、仇にかけるような。
×××も承太郎も感情をめまぐるしく表すたちではない。×××の方が承太郎よりは感情をみせるが、同級生の女子に比較するとおとなしく静かな娘だ。その×××がどこか悲しげにそう言うのだから、と承太郎は星をもつ片割れのなかでとぐろを巻いて居座る感情に目を細めた。
「ジジイもお袋も、親父も待ってる。 帰るぞ」
「…うん」
数ヶ月の殆どを陽に当たらず過ごし、細く華奢になった片割れをどう感じるのだろう。同じだけの期間を危険と焦りに身を置いていた片割れは、どう感じるのだろう。母は、父は、祖父母は。×××を可哀想な子だと、哀れな子だと、甘く苦しく優しく冷たく包んだあの男は。
×××を背負う同じはらから、ふたつ星の背中に頬を寄せて目を閉じた。
そして天国へと連れていくと約束した男の声にきく。
「天国なんて、どこにもなかったでしょう」
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