恋するニワトリ


 嗚呼、なんて素敵なんだろう!今日も私は庭でひなたぼっこしながら剣の手入れする、愛しのスクアーロ隊長を見ている。私はいつも窓枠のちょっとしたスペースに腰掛けながらアジトに帰還するスクアーロ隊長や、中庭を闊歩するスクアーロ隊長や、部下相手に剣を奮うスクアーロ隊長に注視するのが好きだ。日課と言っても過言ではない。
 流れる銀色の髪、鋭い切れ長の眼差し。学生時代2つ3つ上の学年にいた隊長に憧れ、彼を追うようにヴァリアーに入隊した。運よく隊長の隊に所属できたし、クーデターの後もスクアーロ隊長の部下として働いているのが幸せで幸せで仕方がない。
 隊長の為なら、なんだってあげたい。腕でも足でも、命でも、なんだってあげたい。
 隊長に近付く為に、私はなんだってしたい。話す機会が欲しくてやりたくもない書類仕事をわざわざ貰いにいったり。こちらに視線を向けて貰えるように、武器を剣に変えたり。銃の方が得意なのに。
 けれど、隊長は私なんか見向きもしない。恋人はいないけれど、女を抱きたい時は娼婦を買う。誰にでも足を開くような雌猫なんかより私がいるのに!自慢ではないけれど見た目はいい方だし、私はまだ処女なのだ。ガバガバに緩んだ女なんかより私の方がいいでしょう?大好きなスクアーロ隊長。私、隊長が好きなんです。

 わ た し は ス ク ア ー ロ 隊 長 に 恋 を し て い る 。

 本格的に武器を剣に転向するとスクアーロ隊長に告げると、彼は「時間がある時なら教えてやるぜぇ」と笑ってくれた。嗚呼なんて素敵なシチュエーションなんだろう!これでまたスクアーロ隊長に近付ける!
 武器を転向したことで、隊長と話す機会が今までの何倍も何倍も何倍も増えた。嗚呼!ほんとに嬉しい!スクアーロ隊長に気に入られたのか隊長の任務にも連れていってもらえるようになった。会話の内容は剣の話に過去に暗殺した馬鹿なターゲットの話。やっぱり剣の話ばっかりだったけど、幸せだった。スクアーロ隊長の指導のおかげで、ヴァリアー幹部になりえる実力者として認めてもらえるようになったのも幸せだった。

 ある日の任務、隊長と二人で今回は場末の安宿に泊まらなければならなくなった。普段カミサマなんて信じてもいないのにこの時ばかりカミサマに感謝した。隊長と「手違い」が起こりますように!前を歩く隊長にバレないように、こっそり笑った。
 それからは安い物語みたいに計画通りだった。シャワーを浴びていたら、スクアーロ隊長が侵入してきてくれて。それからバスルームで抱かれて。安物のベッド上でも抱いてくれて。更には、隊長は避妊具を使用しなかったのだから!そして私も、薬を使用しなかった。嗚呼カミサマ!あなたはなんて素敵なプレゼントを下さったんだろう!
 すべてが計画通りに進んだおかげで、私の肚は、大好きなスクアーロ隊長の子供を宿していた。

 私の妊娠が発覚した夜、私はヴァリアーを解雇された。復帰するまで1年以上のブランクができてしまう。即戦力が欲しいヴァリアーにとって、私はいらなくなってしまったのだ。
 次の、夜には、トランクを引き摺って、ヴァリアーのアジトの門を背にしていた。胸には、スクアーロ隊長の写真が入ったロケット。こっそり撮った写真だけれど、私のおもいを寄せた人の写真だ。隊長は一度もこちらに視線をくれることもなく、また私も視線を送ることもなくアジトを離れた。
 アジトを離れて半年以上が経った頃。私は一人で隊長との子供を産みました。

 あれから数年が経ち、ただの女と成り果てた私だけれど。

 わ た し は ス ク ア ー ロ 隊 長 に 恋 を し て い る 。


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