彼方のあなたに
彼は死んでしまった。彼の従姉に、殺されてしまった。名付け子の前で。親友の前で。私の前で。
その光景が、何度も何度もフラッシュバックする。二年前漸く再会できた彼は、誰かも分からぬほど痩せこけてしまっていたっけ。それでも再会のハグはあの日と変わらず力強さとぬくもりがあった。嗚呼、もう彼は此処にはいないのだ。
「……あの、」
亡き学友の面影を残す少年が、おずおずとこちらにやってきた。この少年とて父親のように慕っていた彼がこの世を去ったのだからそのショックは大きいはずなのに、少年は私を気遣おうとしている。彼女に似て優しい少年だ。気遣わしげな緑の瞳が優しかった彼女を思わせて、私はまた涙が止まらない。
「あの、僕でいいなら、隣にいます」
私でいいなら、貴女が泣き止むまで隣にいるわ。
学生時代の彼女の幻が、彼女の愛し子に重なる。
ぽろぽろ溢れる涙は止まることを知らない。彼がいなくなってしまったこと。親友が、隣に座る少年の中に生きていること。
どれもこれもが、私の涙腺を緩めてしまう。
帰ってきたら、結婚してくれないか。
あの日、彼は私に言ったのだ。私にキスをして。そんなことが社会的に認められぬ彼だったけれど、私はそれでもよかった。私の隣に座る少年に、リーマス。アーサーとモリー、そしてその子供達。親しい友人でパーティーが開けたら。籍など入れられなくとも、それでよかった。
「…ごめ、な…さ…っ」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。何に謝罪しているのか、自分でも分からない。ただ、口にするなら、この言葉だった。
ねえ、貴方のいないこの世界で、私はどうやって生きたらいいのでしょう。貴方のいないこの世界で、私は何の光を目指せばよいのでしょう。貴方のいないこの世界で、私に宿る貴方の血を引いた子と、どうやって生きていけばいいのでしょう。
「…シリウス…!」
愛してる。私のこの声が、どうか。
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