ナイト


いかないでくれ、と溢れた声は自分でも驚くほどに弱々しかった。こんな俺を本当は知らたくない。いつだって粋で雄々しい伊達男でありたかったのに、見上げる眼に写り込む情けない面は一体どうしたことか。
小さな手を掬い上げてそろりと頬を寄せれば、ついと僅か、白くまろい指先が右目を覆う鍔に触れる。失って久しい右目の奥底が、痛みはなくとも燃えるように熱い。右目があれば、その指先は涙に触れていたやもしれぬ。

「…政宗様を置いて何処ぞに行くなどと、天地が逆さになろうともあり得ませぬ」

その言葉を信じる事が出来たならどんなに良かっただろう。「そうか」と安堵出来たなら、どんなに良かっただろう。互いに虚言だとわかっているのだ。俺に嘘をつくんじゃねえと、衝動に任せて喚き散らしたかった。俺が哀れか、それともただの同情か、思い上がりも大概にしろ、と喚いて詰って憤って、もう泣いてしまいたかった。
 
「…なにゆえ、そのような御顔を… 為さるのですか」
 
どんな顔をしているというのだろう。そういうアンタこそ随分酷い面してるじゃねえかと、毒づく言葉は声にならず代わりに左眦がひくりと吊った。
失うことには慣れた己が、孤独にはいつまでたっても慣れることが出来ずに居る。孤独の対価に得るものは必ずしも創を癒しはしない。だからもう失わぬように、今度こそ上手く守ろうと思ったつもりがこのざまだ。

強ばる頬に押し付けた手も、繋ぎ留めるように掻き抱いた華奢な体躯も、もう己の知っているものではない。沸き立つ焦燥感と共に鈍い痛みがじくじくと脳を焼き、浅い呼吸にぐうと喉が鳴る。

「×××、いかないでくれ」

縋るような声だった。みっともなくても情けなくても、柔らかな笑みをそのまま繋ぎ留められるなら安いものだと思った。

「…どこにも、いきませぬ…」

そう言ってゆるゆると閉じた瞼に問う。

なあ、今度はどうやって孤独に堪えればいい。


***

Twitterの企画で「いすかの嘴」のみさちゃんにリメイクしていただきました。


→ back

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -