星映のブルー


 誕生日プレゼントに買ってもらったウォークマン。お気に入りのアルバムをダビングして毎日毎日聴いていた。
 わたしはこの新作のジャズアルバムがとても気に入っている。特にサックスの音色が好きなのだ。奏者の名前は分からなかったのが心の底から残念でならない。
 詠み人知らず、もとい奏者知らずのサックスの音色は星が煌めき映る夜の海みたいなマリンブルーだ。ときに細波で白い泡を優しく紡ぐ音もあれば、闇のように飲み込む荒波もある。

 このサックスと同じ色をもつ声の人がいたのなら、きっと恋に落ちるに違いない。わたしは友達と恋愛話をするたびにそう思うのだけれど、理解してもらえるはずがなかった。

 シャカシャカとイヤホンから音漏れがする。その音を漏らしていたのは後ろの席の空条くんだった。振り向き確認すると机に伏して眠る彼の、シンプルなピアスを飾る耳には音質がいいと評判のイヤホンが埋まっている。あの、空条くんが音漏れ。いつもクールな顔をした不良の同級生が、音漏れなんて。耳を澄ませば、漏れてくる音はジャズ――わたしの聴いているアルバムの。
 机をこんこんと指先で鳴らした。わたしは天下の不良様、空条くんとマトモに話したことはない。それなのに音漏れ注意だなんて失礼極まりないけれど、彼の聴覚を彩る音色への好奇心に負けて思わず声をかけた。空条くん、音漏れしてる。異国の瞳が此方を向いて、イヤホンを片方外した。

「――悪かった」

 わるかった、と。たった五つの声色がわたしの鼓膜を染め上げた。鼓膜から脳へと伸びる聴覚神経に、星が煌めく夜の海が押し寄せる。わたしの鼓膜と鼓動がどくんと跳ね上がった。


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