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ちょっと、タクシー!



「ああ肇、今どこや?えっ、もう駅着いてしもたんか。アカン、駅の中で待っとき。人がおる所におってな。…せやからアカンて。外真っ暗やで。俺が迎えに行くまでええ子で待っとき、約束や」


そう言って電話を切り、適当なコートを羽織りながら鍵と財布と携帯を乱暴に掴んで家を飛び出す。鍵穴にキーを差し込んで回すと、肇が「お揃い」と言いながら着けていたキーホルダーが揺れた。


「…女の子なんやから、自分の身の安全を最優先してや」


キーホルダーに向かって苦笑してもしゃーない。俺は吹き荒ぶ風の冷たさにひとつ身震いして、愛しい肇が待つ駅に向かった。


「侑士ー!ここだよー!」
「ちゃんと見えとるって」


徒歩で10分掛からない駅の改札口には、ちっちゃい体でぴょんぴょん跳ねながら手を振る肇がおった。両手にぎょーさん荷物持っとんのに元気やな。


「ええ買い物出来たんか?」
「うんー!可愛い服いっぱい!あ、侑士聞いてよ!静香とお買い物してたらね、途中で佐々部ちゃんに会ってね…」


俺を見上げながらにこにこと笑う肇から荷物を預かり、手を繋ぐ。肇は「ありがとー」と言って話の続きを喋り出した。先程は寒かった風も、肇と手ぇ繋ぐとちっとも寒くあらへん。


「……でね、佐々部ちゃんなんて彼氏にプロテイン買ってくんだよ!もー可笑しくて!」
「健康オタクの彼女も大変やなぁ」
「だよねぇ!」
「それに比べて俺は手間のかからんええ旦那やろ?」


ピタリ、と肇の足が止まる。前からチャリンコのオッサンが俺のギリギリ横を通り過ぎるまで、肇は何も言わんし俯いたままやった。


「…肇?」
「あ、あのね…侑士…」
「なん?」
「侑士はとっても私に優しくて、かっこいい頭もいい大好きな旦那さんなんだけど…あの、何て言うか…私が逆に侑士の手間になっちゃうかもっていうか…」
「?」


しもどろもどろに話す肇の話がさっぱり見えんくて、思わず手を離して肇と向き合う。別のオッチャンがチャリで俺らを追い抜いていった。この時期タイヤだだ滑りなんにオッチャン方アグレッシブ過ぎるやろ。


「私は嬉しかったんだけど、侑士は今お仕事大変な時期だし…わざわざ静香が来て付き添ってくれるって言うから、その、今日病院に行って来たら…」
「…まさか」
「さ…3ヶ月、だそうです」


いや何でそこだけ敬語やねん、と突っ込みたかったが腕も脚も思考回路も何も働かへん。え?つまり肇がママになるっちゅー事で、旦那である俺はパパになるんか?えっちょい待って。いやアカンわ、めっさ嬉しい。うわっ明日同僚に何て自慢しよ。オトンとオカンと義理実家と謙也に電話せな。


「…あっ!肇…」
「えっ、う、うん」
「アカンてお前!ほんならこんな寒さ体に毒やん!脚もタイツやし!
ちょっとタクシー!」
「ちょ…!ゆ、侑士!」
「ちょっともアホの坂田もあらへん!俺の大切な子供と奥さんは絶対守ったるからな!」
「う、嬉しいけどさ、声が大きいよ侑士!恥ずかしいよ!」
「いやいやいや肇こんなめでたい日あらへんで!恥ずかしがるなんて事無い!あっ、ちょっとそこのアグレッシブなチャリンコのオッチャン!聞いてや!肇妊娠したんやて!俺パパになるんやで!」


そこから更にコンビニに入り「妻が妊婦なのでタクシー呼んで下さい(キリッ)」と自分の携帯を無視しつつ、今度はタクシーのオッチャンにも自慢しといた。オッチャンに「兄ちゃんこれから頑張らなアカンな!」と激励されて泣いた。俺が。

愛しい肇はそんな俺を見て嬉しいようなドン引きしたような微妙な顔をしとった。なあ肇、俺らの子は女の子なんかな、それとも男の子?アカン、どっちでも俺幸せや。

























END.

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2/9 七瀬肇 Happy Birthday!


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