忍足 侑士 | ナノ




milky way

連日続く暑さも今日ばかりは気にならない。

昨日はパックもトリートメントもした。
ネイルだってバッチリ。

後は待つだけ

<milky way>


「もうすぐだね。」

「せやなぁ、もうひと頑張りや。」

「後、二週間?」

「おん、ちょうど日本に着くのは7月7日やな。」

「あ、七夕だ。」

「七夕に会えるなんてロマンチックやろ?」

「たまたまじゃん。」

「素直やないなぁ、家の織り姫さんは。」

電話越しにクックッと笑うのがわかる。

私は日本
侑士はイギリス

2年の間、私達を繋いだ国際電話も後一ヶ月になると寂しさを感じる

七夕に2年ぶりの再会だなんてロマンチックで聞こえはいい。
まるで織り姫と彦星。

だけど、私はごめんよ侑士。
一年に一回の逢瀬だけで満足なんてできないの。

側にいて触れて抱きしめて私を呼んで

2年もよく我慢できたと自分で自分を誉めてあげたい。
何度イギリス行きの飛行機に飛び乗りそうになったことか………



「2年なんて彦星よりもダメじゃない。」

「ほんま堪忍やで杏里。きっと去年は雨やったんや。」

「何よその言い訳。」

「今年は晴天やから、大丈夫やで!」

「晴れでも台風でも侑士に会いたい。」


声は耳元で聞こえるのに何でこんなにも遠いの?
ねぇ、織り姫様はどうして耐えられるの?
時差はあけど電話一本でもメール一通でも言葉を交わせるのに、離れてるあいだは気が狂いそう

「空港に迎えに行くから」

そう言って電話を切ってから二週間

イギリスからの飛行機が到着したことを知らせるアナウンスが響いた。

もうすぐ…もうすぐ会える。
早る気持ちが押さえられなくて、ベンチから離れゲートに向かう

あぁ織り姫様

あなたの気持ちが一つだけわかった

今、私と同じ気持ちでしょう?

「杏里!!」

機械越しじゃない

待ち焦がれた声が私を呼んだ

ゲートからは沢山の人が出てきてるのに、侑士だけがハッキリと私の目に映る

もつれる足も誰かにぶつかってしまった肩もお構いなしに駆け出して、半ば倒れ込むように飛び込む私を逞しい腕が支えた


「おかえりっ…!」

「ただいま。杏里に会いとぉて気ぃが狂うかと思ったわ。」

「ちゃんと晴れたね!」

「おん。言ったとおりやろ?」

公衆の面前なんて構いなしにお互いの存在を確かめるように抱き合う。

見送ったときよりも一段と大人っぽくなった侑士に愛しさが溢れる。

「なぁ杏里、来年も再来年もずっとずっと先も晴れさせたるから」

少し体を離した侑士が私の手を取って言う




「結婚して下さい。」





気づけば薬指にはめられたダイヤが散りばめられたリング

ごめんなさい織り姫様

やっぱり私、あなたのようにはなれないわ

私の彦星様はこれからは側にいてくれるの

見て、私の指で輝く天の川

綺麗でしょう?

「はいっ!!!」


どうか、あなたの彦星様にもよろしく伝えてちょうだい。

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