忍足 侑士 | ナノ




橙色がにじむ


「お父さんなんて大っ嫌い!!」

と言って家を飛び出した数時間前
まだムシャクシャするっていうか頭の中がグシャグシャ

泣いたってどうしようもないのに、ただ涙が止まらない


今日は家族で動物園に行く予定だった。

先月からお父さんと約束してて、待ち遠しかったのに

昨日友達にショッピングに誘われたけど断ったのに


中学生になっても家族とって…とか馬鹿にされたけど返り討ちにしてやるほど楽しみにしてたのに

朝になってもお父さんが帰ってこなかった。


お父さんはお医者さんで毎日忙しくって家に帰って来ないことも珍しくないし、きっと急に具合がよくない人がいてしょうがないんだってわかってる。


お仕事で出かけられなくなったことは初めてじゃない。

昔から忙しいお父さんを我が儘言って困らせたくないし、しょうがないって思ってたけど。

今日は特別だった


だって今日は私の誕生日




お昼過ぎに帰ってきたお父さんに、我が儘言わない良い子でいられなかった



「寒い…」


五月と言っても日が暮れ始めると風が冷たい。
あんなこと言って勢いよく飛び出してきたものだから上着なんてないし、寒くて涙も渇いた


帰るに帰れない、気分的に
ただ一言ごめんなさいって、言えればいいのに…



「見つけたで」

人の気配がして振り返ると、息を切らしたお父さんがいた。

「ここやったんやな。探したで?」

ずっと仕事で疲れてるはずなのに汗だくで、追いかけて、探してくれてたの?

良い子でいられなかった私を

「今日は、すまんかった!お父さんが悪かった。」

「…いいよ無理しなくて。お仕事だもんしょうがないよ。私、平気。」

「平気やったら真っ赤な目ぇしとるわけないやろ。ほんまにごめんな、こない無理させてダメなお父さんやなぁ俺」

そんな泣きそうな顔しないでよ

お父さんが悪い訳じゃないの

でもね、

「今日は特別だった…!」

「おん」

「動物園、楽しみだった」

「おん」

「友達の誘いも断ったの、お父さんと約束してたから」

「おん」

今日だけでも私が独占したかったの。


「お父さんが忙しいのはわかってるから我慢してるつもりじゃなかったの、でもね、今日は、」

「おん」

我が儘言う私に返事して頭を撫でてくれる手が温かくって、また涙が出そうになる

「お父さんな、もっと我が儘言ってもらいたい。我慢せんと、お父さんの事うんと困らせてほしいわ。」

「…そんなに言えるほど子供じゃないもん」

「幾つになったって、お父さんの可愛い可愛い娘なんやで?そこ忘れんときや。」


どうしよう、また涙が出てきてお父さんの顔が歪んじゃうよ

「さっ…さっきはごめんなさい」

「おん。さぁ、お母さんがご馳走作って待っとるはずやから、そろそろ帰ろか?」

「ん。」

そっと繋いだ手がやっぱり温かくって、嬉しくって

夕日綺麗やで、見てみぃなんて言われても涙をこらえるのに俯いちゃったし


「明日はプレゼント買い行こな?」

「ん。」

「一緒にパフェも食べよな?」

「ん。…お父さん、」

「なんや?」

「大好き」

「お父さんの方が大好きやし!」


いきなり小さい時みたいに抱き抱えられた私は、幾つになってもお父さんの娘なんだって体中で感じたの


お父さんの肩越しに見えた綺麗なはずの夕日は、溢れ出した涙でにじでしまってよくみえなかった


end



企画「彼と私は家族です」提出。2011/05/23


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