忍足 侑士 | ナノ




ハレルヤ


昨日の昼休み
いつものように杏里と弁当食うとるとこに、トランプを持った岳人と後ろから神妙な顔した宍戸が来よった。

杏里は一瞬、本当に一瞬心底嫌っそうな顔しよった。
(可愛いやっちゃな…、宍戸は岳人のこと止められへんかったんやろな)

俺の手前、杏里は言わへんけどこうやって二人でいるところを岳人に邪魔されるのが嫌いな彼女。

「大富豪しようぜ!!」

いつもなら、岳人のそんな誘い上手くかわして追い出すんに、うんいいよ、なんて二つ返事するなんて思わんくて「ほんまに?」って聞き返してしもた。

「うん。侑士は嫌だった?」

「嫌やないけど…。」

「じゃあやろっ!あ、なんか罰ゲームつくらない?」

「いーじゃんそれ!」

「簡単に大富豪が大貧民に命令でいいんじゃないか?」
「よし、それでやろうぜ。」
そうやって始まった大富豪。
結果は杏里の一人勝ち。
(俺ぼろ負けやん。こんだけ強けりゃ、罰ゲームとかいうはずや。)

「じゃぁ、侑士は…」

そして決まった罰ゲームを実行させられている今日。なに言われるかビビったけど、そんな大したこと有らへんかった。

「明日学校終わったら寄り道しないで家に帰って、携帯の電源切って外出しないで。12時過ぎたら罰ゲーム終わりだから、電源入れて良いからね。」

なんやそんな事かいな。
ちょっと拍子抜けやけど、まぁええか。

そして今日の放課後
俺の携帯の電源を自ら切って、笑顔で帰って行った杏里。
今の時刻は部屋の時計で23時55分

(もうちょいやな。)

放課後からの数時間じゃなんら不便やないな。

にしても、何のための罰ゲームやったんやろ。
杏里とメールやら出来んのは寂しいもんやったけど、それが狙いやったんか?
(お、12時回っとったわ。電源入れてみよか。
案外、杏里からメールやら気てるかも知れへんし。)

そう思て、電源を入れた瞬間にディスプレイに映し出された最愛の人の名前

驚いた拍子にワンコールもならんうちに通話になってしもた

『もしもし、侑士?』

「ぉおおん、罰ゲームはやぶってないで!?」

『うん、知ってる。』

「…杏里、外にいるんか?」

電話の向こうから微かに車のエンジン音が聞こえよった。
まさかなんかあったとかやないやろな!?

『うん、ちょっとね。』

「こんな時間に危ないやろ。どこにいるん?」

『ねえ、侑士、月がきれいだよ。窓開けてみてよ』

「杏里、聞いとる?」
人の注意を聞き入れないつもりなんか、話をそらす杏里。
少しため息を尽きながら部屋の窓を開けて空を仰ぐ。
「あー、確かに満月綺麗やなぁ…」

「侑士、誕生日おめでとう」

「えっ……!?」

電話越しに聞こえる杏里の声が肌寒い空気に響いた。
電話越し、だけやのうて外に

「一番に言いたかったの。」
状況が飲み込めずキョロキョロと窓から身を乗り出すと家の前に立つ杏里と目が会いよった…

勢いで電話切って階段を駆け下りて外に飛び出す。あまりの音にリビングから姉ちゃんの声がしよったが無視した。

「なにしとん!?」

「誕生日おめでとう、侑士。」

「ぁ…」

日付をまたいで
今日は10月15日
俺の誕生日

暗がりでもわかるくらい満面の笑みの杏里

あかん…嬉しすぎて泣きそうや

「そのためやったん…?」

声、震えてへんかな

「そうだよ。私、一番乗りだった?誰のメールも電話もきてない?」

俺のために誰よりも先に伝えてくれた杏里に言葉に出来へんほど愛おしさが溢れてどないしようもなくて力いっぱい抱きしめた。


「ありがとう、ありがとう杏里。嬉しすぎて死んでしまいそうや。」

「私を残して死ぬなんて許さない。来年も再来年もずーっと先も私に誕生日お祝いさせてよ。」

「おん。」

「好き大好き愛してる。」

「俺もやで。愛してるじゃ足らへんわ」

「生まれてきてくれてありがとう。
側にいてくれてありがとう。」

あかん、もうだめかもしれん
俺の腕の中にすっぽりと収まっている杏里が愛おしすぎて、どうにかなってしまいそうや

「こない幸せな誕生日の始まりなんて生まれてはじめてや。」

ありったけの感謝と愛を込めて彼女の唇に触れれば、ひんやりと冷たい感覚。

「いつから待っとったん?」

「侑士が生まれる前から」

「上手いこと言いよるなぁ、姫さんわ」

「今日の主役はあなたよ、王子様。」

握りしめとった携帯が、せわしなく友人等の名前を表示しとるのは見ない振り。
もう一度唇を重ねて、今日と言う日に最大の感謝を


<ハレルヤ>



Happy Birthday Darling

[ 10/10 ]

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