忍足 侑士 | ナノ




felicitare


RRRRR―…
――RRRRR
      RRRRR
 RRRRR―

「もしもーし」

『もしもし、杏里ちゃん?白石やけど』

「こんにちは。どうかした?」

『今日仕事休みやろ?なんかしとった?』

「いや、予定もないし家にいるけど…」

『ちょぉお願いがあんのやけど、今から病院来てくれへん?』

「え?…うん、まぁいいけど。」

『ほな、待っとるわ!』

病院って、白石君仕事中じゃないのかな?
暇なのか、薬剤師

部署は違えど、デート潰して3日も泊まり込みしてる侑士とは大違い

…考えたら寂しくなった

ついでに侑士に差し入れ買っていこう
あくまでついでだし!
そう、ついでよ!ちょっとでも侑士に会えたらな、なんて思ってないし!

(きっと直接は会えないだろうから、皆さんで食べれるような物にしよう)



「もしもし、杏里だけど…うん、病院ついたよ。今玄関の外。うんうん、わかった待ってるね。」


いつ来ても立派な建物ですこと。
こんなとこで働いてる侑士の凄さを思い知らされる。あ、白石くんもか…

医者になるために努力して、医者になってからも努力を惜しまなくて…
ずっと支えたい、その気持ちは変わらないけど少し寂しいのは確かなの

(侑士覚えてたかな?3日前は付き合って十年目だったんだよ)


「杏里ちゃん!わざわざすまんなぁ」

「ううん。暇だったし。」

「ほんま助かったわ。ぁ、こっちやで。」

久しぶりにみた白石くんは中学の時と変わらずさわやかイケメンだった。
廊下を歩くとたくさんの人に声を掛けられる白石くん。
変わらず人気者なんだな。子供からご老人まで…

「頼みたいことってなに?」
「持って帰ってもらいたいもんがあんねん。」

「私に?」

「おん、この部屋に置いとるから持って帰って。見たらわかると思うわ。じゃ、俺仕事戻るさかいに」

それだけ言うとスタスタと行ってしまった。
ちょっと!呼びつけたくせになんなのエクスタ薬剤師!!

扉には"staff only"の文字。
私、入っていいの…?
気休めにノックしてみたけど、応答はなし。
物置とかいうオチ?

「失礼しまーす」

気休めに声をかけて恐る恐るドアをあけた。

少し薄暗い中でもわかる散らかった室内。
この中の何を持って帰れと……あぁわかった。

部屋の隅に追いやられたソファ

この距離からでもわかる、愛しい恋人が寝息を立てていた。

「白石君にまで心配されちゃって…頑張りすぎなのよ、馬鹿。」

よほど疲れているらしく、物音を立てながら近づいても起きる気配がない。

この荷物なら喜んで持って帰るけど寝てる侑士を持ち上げられる訳ないし、寝てる所を起こすのも可哀想だし……

部屋の掃除でもして少し待とう。
見たところ侑士が一人で使ってるみたいだし、捨てさえしなければ問題ないだろう。

手始めに床に散らばった難しそうな本を拾い集める。

「うっわ、埃っぽい!」

思わず咳き込んでしまいそう。
これで起きたとか言われても私のせいじゃないし。
そっと確認してみても変わらず目は閉じられたままだ。

「あーぁ、白衣も脱ぎっぱなし…。皴になっっちゃうじゃない、全くもう」

無造作に脱ぎ捨てられた白衣を手に取って広げる。
一度だけ着てるところを見たことがあるけど、嫌味なほど似合ってた。
微かに侑士の香りがする。

(………変態か私。)

きっとクリーニングに出すんだよね?
じゃあ、畳んどくだけでいいかな

「ん?なんか入ってる…?」

手のひらに収まるような箱
所々ヘコんでるし、リボンが途中で切れてしまっている




うわぁ………気がついちゃったかも

五分前でいいから!
時間を戻して!


いつから持ってたの?
箱、クシャクシャじゃないヘタレ侑士


折角の乙女イベント潰した…
私をここに呼びつけた白石くんを本気で呪う

いや、あの男の事だ
絶対にこの箱のことを知っていたに違いないっ!
「誰かおるん…?」

突然かけられた声
大袈裟に肩が跳ねる

「ぁ…」

「ちょっ…!?杏里なんでおるん!?ここ病院やろっ!?」

「ひ、さしぶり。白石くんに頼まれて迎えにきたの…起こしてごめんなさい。」

「杏里…それ、それ、」

見つかったぁあぁぁあぁぁぁ!

「あ、いやっその!白衣皺になっちゃうなぁっ思って!」

「はぁ…なんや締まらんけど、しゃーない。杏里聞いてや」

「うん。」

寝起きで一段と低い声
でも、今までのどんな時よりも真剣な声

いや…前にもあったな
あれは、そう氷帝学園の中庭
侑士に初めて好きって言われた時




「俺と結婚してください。」





予想は出来ていたのに
視界が歪んで侑士が見えない

十年前と同じ

嬉しくって幸せすぎて貴方が愛おしすぎて涙が止まらないの

「また泣いてもうて、十年前と同じやな?なぁ、なかなか言い出せんかったヘタレやけど、誰よりも幸せにするから」

「はいっ。」

やっと絞り出した声は返事をするのがやっと

でも侑士はそれだけで十分とでも言うように抱きしめてくれる。

小さいころ夢見たような花束も綺麗なレストランも夜景もないけれど、愛する人からの言葉だけあれば十分

潰れた箱だって幸せの形

「へタレでも何でも侑士が良い。」

「俺も杏里やなきゃあかんねん。寂しい思いさせてまうかもしれへんけど、傍におってや。」

「そんな覚悟、とうに出来てるわ。」


そっと触れる唇に込めた言葉じゃ伝えきれない愛してる
侑士こそ何十年先も幸せにしてあげるから、覚悟してよね。


あと、もう一つ思い出した……
あの中庭、やっぱり裏で糸を引いていた泣き黒子がいた。


end

(あー!!忍足先生が白石先生の彼女と一緒だー!!!)
(ちゃうわ!!白石先生のやのうて先生の奥さんや!!!!)
(うっそだー!!)
(お、お二人さん上手くいったみたいやね。)
(白石君、ちょっと顔貸しなさいよ。)
(ぇ…ちょ!いたっ!!引っ張らんといて!!)




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