仁王 雅治 | ナノ




ほっぷすてっぷ君にダイブ


全国大会まで一週間
幸村が加わって、練習は過酷を極めちょった
今日もなんとか生きて終わることが出来たんは奇跡じゃなかろうか…

お、カレーの匂いがしよる。
腹ペコじゃ

「ただいまナリ」

「お帰り雅治」

<ほっぷすてっぷ君にダイブ>


「なんでおるんじゃ…」
「なんでって、用事があったから。そしたら叔母さんが夕飯に誘ってくれたの。」

玄関を開けた俺を出迎えたのはのは
見慣れた母親じゃのうて、隣に住む8つ年上の杏里姉じゃった。
昨日メールした時には何もいっとらんかったんに…

「部活お疲れさま。全国、来週からだっけ?」
「なぁ、見に来てくれんの?」
「えー?平日じゃん!無理無理、仕事だもん。」「嫌じゃ!杏里姉来てくれんと嫌じゃ!決勝は日曜じゃもん!来てくんしゃい!!」
「決勝まで残ってると…?たいした自信ね。」
「当たり前じゃ!でも杏里姉が来てくれんと頑張れん!」
「わかったわかった!決勝には行くから、負けんじゃないわよ?」
「絶対負けん!」

そう言って俺の頭を撫でる癖は変わっとらん。
いつも追いかけた背中は、いつの間にか小さく感じるようになって
杏里姉の身長を追い越したんは中学に入ってからじゃった。

「もうすぐお米炊けるから、手洗っておいで。」
「ん。」
「うがいもするのよ?」
「子供じゃないけぇ、わかっとる。」
「いつまでたっても可愛いまーくんだよ。」

なんじゃその言い方わ!気に入らん!
まーくんは卒業したんじゃ!

「飯誘ったくせに、おかんおらんの?」
「なんか急に町内会で集まることになって、出かけたよ。」
「ふ〜ん。なぁ、杏里姉聞いて」

学校のこと
テニスのこと
友達のこと
話す度に嬉しそうに頷いてくれる
それが嬉しくってたくさん話すんじゃ。
杏里姉だけは俺の事、お喋りだって言う。


「そういえば用事ってなんだったんじゃ?」

久し振りに会えたうれしさからか、空腹も忘れとった
ピーという炊飯を終える音に席を立った杏里に声をかけた


「忘れてた。おばさん達には報告したんだけどね、」

戻ってきた杏里姉の顔を見て嫌な予感しかせん
なんで聞いたんじゃ…




「私、結婚するの。」




ほら言わんこっちゃない…
なん、それ
そんな顔で笑わんで…

けっこんってなに?

いやじゃ…嫌じゃ!嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!!!
結婚なんてしたら隣からいなくなるんじゃろ!?

杏里姉は俺の杏里姉なんに、他の男のもんになるなんて考えたくもない!

なんで?なんで杏里姉!?

「そんなん嫌じゃ!!!!!!」


思い切り立ち上がった勢いで椅子が倒れよったが、お構いなしに兎に角その場を離れたかった。
後ろから焦った声が聞こえちょるが、それよりも頭がガンガンしよる。

逃げ込んだ先は目と鼻の先
二階に上がっただけの自室
勢いよくドアを閉めてその場に崩れ落ちる

(嫌じゃ嫌じゃ!)

嫌しか言えんけど嫌なんじゃ
気がついたら頬が濡れとる
鼻がツンとしよる

「雅治!!開けなさい!!聞こえてんでしょ!?」

背中に響くドアを叩く音と杏里姉の声

「ねぇ、いきなりどうしたの?」

いきなりなんは杏里姉のほうじゃ!

「何が嫌なの?」


杏里姉がいなくなるんが嫌なんじゃ……
嫌で寂しくてしょうがないんじゃ

「そりゃ、メールしてても何も言ってなかったけど。直接言いたかったの。そんなに怒んないでよ!」
「そんなんじゃない!!」
「じゃぁ何!?」
「なんで結婚するんじゃ」
「なんでって……」
「結婚せんでもええじゃろ!?」
「一番傍にいたい人がいるから結婚するの。とっても素敵人よ。」

そんなん知らん!
どんなイケメンじゃろうが大金持ちじゃろうが、俺から杏里姉を取る奴には変わりない!


「…雅治、泣いてるの?」
「グスンッ泣いてなんかないズズッ」
「ねぇ、聞いて」

ドアを隔てた真後ろに感じる杏里姉の体温

「結婚しても会いに来るよ、テニス見に行くよ、何度だって一緒にご飯食べよう?」
「それだけじゃ足らん!!結婚せんとって!」
「ちゃんと聞いてよ…。私、幸せになるんだよ?それはイケナイこと?」
「杏里姉は幸せじゃなくちゃいけんけど、結婚するんは嫌じゃぁ!!」
「なにそれ!じゃあ雅治がお嫁に貰って幸せにしてくれるの!?彼女いるの知ってんだからね!?」
「それとこれとは別ナリィィィ!!!!」
「別じゃない!!」
「違うぅぅぅぅ!」
「違くない!!」
「嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁ」
「あー分かった。雅治なんか式には呼ばない。もう知らない!!帰る!」

一際大きくドアを殴りつける衝撃と遠ざかる足音がしよる

「っごめ…!杏里姉!行かんで!杏里姉が、ヒック結婚していなくなるんが嫌グスンッじゃ。俺の事なんて忘れてしまうけんズビッグスッ寂しかったんじゃグスッ杏里姉が取られてしまうみたいで、嫌じゃ嫌われるんはもっと嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「ドア、開けなさい雅治。」

逃げ出して喚いて我が儘言うことを怒られると思った。
でも杏里姉の声はどこか楽しげで、恐る恐るドアを開けると隙間から伸びてきた手にすっぽりと包まれた

ますます嗚咽が止まらんくなる

「まーくんは泣き虫だね。」

「う゛う゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「おばさんがね、雅治は絶対反対するって言ってた。その通りで嬉しくなっちゃった。まぁここまでとは思わなかったけど……結婚してもきっと、なにも変わらないよ。」

「きっとじゃ寂しいぃぃぃ!」

がっしりとお腹にしがみ付いて首を横に振る。
この際なりふりなんか構わん。

「ずっと”杏里姉”でいさせてくれるの?」

「いてくれなくちゃ俺死んでしまうかもしれん。」

大げさだというけど、その通りなんじゃ
だから、ずっと俺のこと甘やかして?

「約束じゃ、試合見に来てくんしゃい。」

「うん。だから決勝まで負けないで。」

「一緒にご飯たべてくんしゃい。」

「今度、雅治の好きなもの作ってあげる。」

「メールも忘れんで。」

「今だってしてるじゃん。」

「絶対、絶対幸せになってくんしゃい。」

「任せなさい!!」

「おめでとう、杏里姉」

ありがとう、とほほ笑んだ杏里姉は今までで一番幸せそうで、綺麗じゃった。


end
「また頭撫でてほしいけん」
「いくらでもしてあげる、この甘えん坊!」
「杏里姉が甘やかすからナリ」
「じゃ、もう甘やかさない。離れて。」
「ごめんしゃい、嘘です。」
「雅治、目真っ赤!」
「見ないでくんしゃい!」



[ 2/2 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -