私、白石 杏里中学三年生。
部活動はやってないけど、日課はお家の薬局を手伝うこと。
そんなに大きくはないけど結構繁盛しているうちのお店。
従業員はおじいちゃんと時々私。
小さい時から将来の夢は薬剤師になってこのお店を継ぐこと。
おじいちゃんは「こんなボロイ店やめとき。」っていうけど、私はおじいちゃんのこの店が好き。
<カラフル>
「ただいまー!!」
「おかえり、杏里。冷蔵庫にプリンあるから食べてきぃや。」
「わーい!!急いで着替えてくるから!」
「そんなに急がんでええよ。」
小学校三年生の時に私の両親は揃いも揃って交通事故で逝ってしまった。
一人ぼっちになってしまった私に手を差し伸べてくれたのが大阪に住んでいたくぅじいちゃんだった。
当時、東京に住んでいた私は数回しかあったことがなかったけど、優しい関西弁にちょっとお薬の匂いがするくぅじいちゃんが大好きで、
“うちに来ればええ”
そう言ったおじいちゃんの手を、私は迷わずに握りしめた。
「おじいちゃん、ここの棚空っぽだよー?注文出さなきゃ、謙也さんからクレーム来ちゃう。」
「あーせやった、忘れてた。杏里頼むわ。後、アレやほら、アレ。」
「はいはい、目薬ね。」
「それや!」
「ついでに他の在庫も調べちゃうね。そろそろマスクとか必要になってくるし。」
制服を脱いだら黄緑色のエプロンをつけて店にでる。
おじいちゃんはもっと友達と遊んで来いっていうから、毎日ではないけど。
「あのね、今日学校で美緒と恵莉那と一緒に律の掃除が終わるのを待ってたんだけど、その時美緒がね」
「お前らが揃うとロクなことあらへんな…」
学校であったことを次々に話す私をいつも目尻を下げて聞いてくれるおじいちゃん。
それが嬉しくて、ついつい話に夢中になっちゃうけど作業する手がおろそかにならないように気を付ける。
給食のあれが美味しかったとか、友達の話、先生の話、どんな話だっておじいちゃんは「今日はなにがあったん?」って聞いてくれる。
「せや、今日の夕飯は何がええ?」
「おじいちゃんのお好み焼きが食べたい!!」
「なら買い物いかなあかんな。そろそろええ時間やし、今日は店閉めて一緒にいこか。」
「行く!」
「ほな準備してくるから、看板頼むわ。」
「はーい!!」
外に出ると夕日が眩しくて、思わず目を細めた。
今日も太陽が綺麗。
「なんや杏里ちゃん、今日はもう店閉いなの?」
「おばさん、こんにちは!今日はおじいちゃんと夕飯の買い物に行くの!!なにか御用だった?」
「今日は通りかかっただけなんやけど、明日いつものアレを用意しててもらえると助かるわ。」
「わかった!いつものオレンジ色のやつだよね?用意しとく!」
「いつもおおきに。ほな、気ぃつけて買い物行くんやで。蔵さんにもよろしゅうね。」
「うん!」
通りかかる人たちが声をかけてくれる。
お隣のおばさん、向かいにある洋品店のおじさん、お店の常連さんに部活帰りの友達。
大阪に来てから寂しいと感じたことがないと言ったら嘘だけど、両親がいない代わりに皆が傍にいてくれた。
お店のお手伝い大変だね、って言うクラスメイトがいたけど苦に思ったこともおじいちゃんが手伝いを強いることも一度もなかった。
お店に出ることは楽しい。
何よりもこの小さな薬局が好き。
白衣の白
ビタミン剤の黄色
眩しいお客さんの笑顔
「杏里ー?行くでー?」
揺れるミルクティー色
「今いくー。ねぇおじいちゃん、私ここに居られて本当に幸せ。」
「なんやいきなり…。杏里が幸せならおじいちゃんも幸せやで。」
私、白石 杏里中学3年生。
小さい時からの夢は大好きなこの店とおじいちゃんを守ること。