向日 岳人 | ナノ




瀬戸際攻防戦


俺、向日岳人。
氷帝学園三年テニス部所属。
今ダブルスパートナーの侑士の彼女こと七瀬 杏里と二人きり。

なんでかって?
部活も休みで久しぶりに侑士と帰ろうと思って教室に行ったら委員会に行った侑士を待つ七瀬に遭遇した訳。
七瀬と帰る約束してるらしいけど、はいそーですかって帰るのもシャクだから少し居座ることにした。
ぶっちゃけ、俺は七瀬に嫌われている。と思う。
(別に嫌われるようなことした記憶とかねぇんだけどなぁ)

「向日君、帰んないの?」
「あー侑士に伝えることもあるし、ちょっと待つわ。」
「メールすればいいじゃん。」
「メールするほどじゃないし。」
「じゃぁ帰れよ。」

キタコレ
侑士の前じゃそんな態度ぜっっっっっったいしないくせに!!
別に伝えたいこともねぇし!

「七瀬って侑士の前じゃ猫かぶってんのな」
「失礼な。猫なんて被ってない。」
「嘘だぁ!今だって態度違うじゃねぇかよ!!」
「なんで彼氏でもない向日君を最愛の侑士と同じ扱いしなくちゃいけないの?頭おかしいんじゃないの?」
「っ…!お前、すげぇな…」
目の前の小野は笑顔で言いはなった。
そりゃそうだけど、そこまでいうか!?
怖ぇよマジで!!

「侑士のどこが好きなわけ?」
「侑士だから好きなの。」
「日本語しゃべれ。」
「全部って言いたいくらい。いくら私だって侑士の全てを知ってるわけじゃないし、でも侑士が好きなの。そんなのに理由なんていらないわ。」
「フーン」
「早く帰りなよ。」
「まだ言うのかよ!!」

いまいちわっかんねぇけど、その位誰かを好きになれる七瀬がすげぇっていうか、好きの対象になってる侑士すげぇよな。

(侑士もポーカーフェイスのポの字もなくなるくらい七瀬のこと好きだけど)
「いくらでも言うわよ。私、侑士と二人で帰りたいの。向日君と三人で帰ることになったら……」
「なったら、なんだよ。」
「死ぬほど後悔させてやるからな。」
「(ヒィ!!目が、本気だ!)……別に一緒に帰ろうなんて思ってねぇし。」
「じゃぁ、また明日!」
「まだ帰らねぇ!」
「チッ!」
「舌打ちしやがったこの女!!」
「きっとお母さんが夕飯の用意をしているはずだからさ!」
「家の家庭事情まで持ち込むなよ!!!」
「今日はなにかなぁ〜カレーかなぁ〜パスタかなぁ〜それとも唐揚げかなぁ〜」
「うっぜぇ!まじうっぜぇ!」
「今すぐ帰宅しようとしない向日君にまさるうざいものはこの世に存在しないと思いますまる」
「いくらなんでも俺の扱いひどくねぇ!?俺、侑士の親友だぞ!?パートナーだぞ!?」
「だから気に入らないに決まってんじゃない。」

は?だからってなんだよ…
てか、やっぱり嫌われてたんだ俺。
なんか改めて確認するとショックだ……

「侑士にはいつも私のことだけ考えていてほしいのに、テニスの時はそれしか考えてないじゃない。私は同じコートに立つことは出来ないのに、向日君にはそれが出来るの。私が一瞬も存在しない空間に侑士と一緒にいるなんて気に入らないわ。それに、侑士は向日君のこと見てて飽きないとか言ってるし、やっぱりパートナーだし侑士に嫌われたくないから、表面上はつくろうけど私の知らない侑士を知ってる人間なんてこの世に存在しなければいいのに。」
「………そんな理由で嫌われてんのかよ」
「これ以上の理由が存在する?さぁ、理由がわかったところで気持ちよくお帰りなさいよ!」
「七瀬ってさ、周りの予想を超えて侑士のこと好きだな」
「予想ってなに?私の気持ちが何かで表せらるようなものだと思ってたわけ?心外だわ。」
「いや、そうゆうわけじゃねぇけどよ」
「まぁいいわ。なんで私、向日君とこんなこと話してんだろ…ハァ侑士まだかなぁ」

心底うんざりしたようにため息を吐いた七瀬だけど、侑士の名前を呟いて教室のドアを見つめる横顔が驚くくらい綺麗だったのはきっと目の錯覚に違いない。
強く目を瞑って瞬きをした瞬間には、少し眉間に皺を寄せて不機嫌そうな見慣れた七瀬だった。

(なんだ…今の)

じっと七瀬を見てたら「減るからこっち見ないで。」って言われた。
なにが減るって言うんだ。
「なぁ…」
「今度はなに?」
「いいこと教えてやるよ。」
「はぁ?」
「侑士な 。」
少し息を飲んで、途端に顔を緩ませた七瀬はさっき一瞬見たあの顔だった。
(わかった。侑士に恋してる顔なんだ…。)

気に入らないはずの俺の言葉を疑いもせずに噛みしめているのは、俺が七瀬にとって侑士の身近にいる"気に入らない俺"故の信憑性だろう。

「じゃ飽きたし、俺帰るわ。またなー。」

てっきり、「やっと帰る気になったの?じゃぁね。ついでに明日も学校休みなよ。」とか言われるかと思ったら上機嫌そうに手を振られて、明日は雨どころか槍でも降ると思う。

玄関に向かっていると走ってくる侑士とすれ違った。

「まだ帰ってへんかったんか。」
「あぁ、ちょっとな。」
「なんやニヤニヤしよって。」
「いやぁ…七瀬が教室で待ってたから早く行ってやれよ。」
「せやった!ほな、また明日な。」
「またな。あ、侑士!」
「なん?」
「七瀬のこと大事にしてやれよ!!」

なんでこんな事言ったのかは自分でもよくわかんねぇけど、つい口にでちまった。
「そんなん当たり前やんか。」

と、さも当然のように言いはなった侑士はさっきの七瀬と同じ顔をしていた。

<瀬戸際攻防戦>

(そう、恋してる顔)


「侑士な、試合中だってギャラリーにお前を探して、七瀬に勝って格好いいとこ見せたいんだってよ。だから試合中だろうと侑士の中心はお前だっつー事」

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