小説 | ナノ

侑士おじいちゃん


嫌みなほど晴れ渡った夏空のもとで、しめやかに行われた祖父の葬儀

そこそこ大きな病院の院長をしていたため、式にはひっきりなしに多くの人が弔問に訪れた

きっと優しかった祖父の人柄の影響も大きいだろう
絶えず涙を流す同年代の方達も多かった


本当に優しかった

穏やかな関西弁も

頭を撫でてくれた大きな手も

大好きだったけど、一番好きだったのは祖母に見せる笑顔だった

大好きな祖父の隣には大好きな祖母がいた



2年前までは



祖母の後を追うように逝ってしまった祖父
それも、2年前と同じ夏

一人になってしまった祖父は、どこか陰が拭えなかった


「こないやったら、しっかりせぇってに怒られてまうなぁ…」

って困ったように笑っていた

違うよ。
私が好きだった笑顔はそんな顔じゃないよおじいちゃん

記憶の中の祖父母は絵に描いたようなおしどり夫婦で、いつもお互いを慈しみあっていた

出かけるときは手を繋ぐのが2人の日常

おばあちゃんに聞いたおじいちゃんとの恋物語は本当に素敵だった

「おい、そっち終わったか?」

「ぁ…ごめんなさい。まだ掛かりそう。」

「まぁいいけど、母さんがもう直ぐ昼飯の用意できるってさ。」

「わかった。」


兄に声をかけられて我に返る
忘れるとこだったけど、今日は家族で祖父の遺品整理をしてたんだった。


私が任されたのは、それほど大きくはない押し入

男物の衣服に時折混じる女物
きっと祖父が大切に閉まっていたんだろうな


(あぁ、このブラウスはおばあちゃんのお気に入りだった)

一つ一つ開いては畳み直す。
ふと一番奥に押し込められた古い衣装ケースを見つけた

興味の引かれたまま開けてみると、ぎっしりとアルバムなどが積められていた

表紙を見るだけで何度も開かれた事がわかる古びたアルバム

一冊を手にとってページをめくる

そこには肩を寄せて微笑む祖父母
写真に写る2人の服装からするに中学か高校生のころ

「若…」

きっとつきあい始めた頃だろうな
写真の中の2人は私が知っている大好きな笑顔だ

どのページをめくってもそれは変わらない
見てるこっちが恥ずかしい。

他にも片方だけのピアス、チェーンの切れたペンダント、色褪せた髪飾り

数え切れない2人の思い出が溢れている

「おばぁちゃんの宝物なんだろうな。」

きっとおじいちゃんからのプレゼントなんだ

そして、ケースの底には束ねられた数々の恋文
古びた色合いの中に真新しい白い封筒が重ねられていた。

「おじいちゃんの字だ。」

封筒には達筆な文字で"愛しい人へ"

失礼と呟いて中を開ける


書かれていたのは封筒と同じ真っ白な便せんに、ただ一言




"愛してる"




見てしまったことを心底後悔してる。
たぶん……たぶんなんだけど、おばぁちゃんが亡くなった後におじいちゃんが書いたんだ。
これはおばぁちゃんが見ることは絶対にないけど、おばぁちゃんしか読んじゃいけなかった。


「おぃ、飯できたぞ。早く…って泣いてんのか?」

「ねぇお兄ちゃん、おじいちゃんはおばあちゃんと会えたかな?」

「何だよいきなり。」

「だって2人は一緒じゃなきゃダメだよ。」

「しょうがねぇな……良いこと教えてやる。」

どことなく祖父の面影を残す兄
自慢の次期院長。
あの日も諦めずに祖父を繋ぎ止めようとしていた

「じぃちゃんな……」


やっぱり2人はいつも一緒じゃなくちゃいけない運命だったんだよ
式の最中には流せなかった涙が溢れ出して止まらない
「泣いたら2人に怒られんぞ。」

「うん。」

じゃ、笑えと言って頭をなでてくれる手は暖かいけど、やったぱりおじいちゃんとは違ったけど

「お兄ちゃん、手繋ごう」

「今日だけな。」

繋いだ手は、同じお医者さんの手をしていた。



"最期に、手ぇ繋ごかって言ったんだ"




end

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