忍足 謙也 | ナノ




「ねぇねぇ、謙也!今週末、神社でお祭りがあるんだって!」

「そいや、小春が言うとったなぁ」

「私、大阪のお祭り見てみたい!」


<甘い君しょっぱい僕>


はなと付き合って初めての夏。
全国大会が近くてあんまりデートも出来てへんけど、文句も言わんと応援してくれる可愛い彼女。

今日も差し入れ持ってきてくれた上に、テニス部の雑用までこなしてくれてる。

去年、北海道から越してきたはなにしたら暑くてかなわんはずなんに…

その彼女に、そないお願いされて断れる訳ないっちゅー話や。
お祭りゆうたら浴衣、期待してもええんやろか?

やばっ、なんやテンション上がるわ!

「おお、ええなぁ。練習も夕方には終わるし、行こか!」

「やった!花火も一緒に見ようね?屋台も楽しみだね!」

「はなは花火より屋台のが楽しみなんとちゃう?」

「そんなことないもん!…け、謙也と行くのが、一番楽しみだもん…」

「ぉぉぉおぉぉおぉん…」

ビックリして上手く返事もできへんかったけど、俺もやし……!!

「ぁ、あのね!私、屋台のあれ好きなの!」

「あぁあああれってなんやねん!」

ドモリ過ぎやろ、俺

こないやから白石等にヘタレ言われるんか?

「フレンチドック!!」

フレンチ、ドック?
聞いたことあらへんけどなぁ…

「なんなん?それ。」


「え?定番じゃない、ほら、えーと、ソウセージに衣がついてるやつ。コンビニにもあるじゃん。」

「……それはアメリカンドック、やろ?」

「まぁ、そうとも言うよね!」

「そうとしか聞いたことあらへんし。」

「えぇ〜?ま、フレンっ、アメリカンドックは絶対食べたいの。やっぱ、お祭りって言えばそれ!」

「おん。一緒に食べよな。」

口いっぱい頬張って、口にケチャップついてるはなとかむっちゃ可愛ええんとちゃう?

いや、いつも可愛いんやけどな?
浴衣マジック、お祭りマジックがかかると思うんや

「おいしーよね、砂糖の甘さとソーセージのしょっぱさがさぁ」

「そうやんなぁ、お手軽やし……………………ぇ、砂糖?ケチャップやのぅてか?」

砂糖ってなんや!?


「何言ってんの謙也、フレンチドックは砂糖に決まってるでしょうが。」

「だから、フレンチドックってなんやねん!
アメリカンドックちゃうの!?」

ちゅーか、砂糖って…俺が考えてるアメリカンドックとは別の食べ物なんやろか
「コンビニとかではアメリカンドックって書いてるよ。でも、フレンチドックとも言うんだよ。そして、砂糖味しか認めないぞ、私は!!」

もしかして、謙也はケチャップ派?
うわー、砂糖以外は邪道だし!
今まで食べてこなかったわけ?
なんで、なんでー?
小学校の給食でも砂糖味でメニューにあったし!

と言ってまくし立てるはなについて行かれへん
スピードスターは返上やろか…

「ケチャップ派も何もケチャップしか聞いたことあらへんし…」

「…………………………………………ほんとに?屋台とかで、砂糖とケチャップが用意されてるじゃん?」

何、その蔑むような目ぇは!?
こっちが、砂糖とか意味分からんし!

「マジやし。砂糖とか考えられへんし。」

「マジ、ケチャップとか意味分からんし。コンビニとかでも砂糖付けてくれるし。セ●ンイ●ブンとか。」

「はぁ!?コンビニで買うてもなんも言わんとケチャップ付けてくれるやろ!?」

天下のセブ●イレ●ンでそない意味分からんことする訳ないやろ!

「はぁ!?普通ケチャップか砂糖が聞かれるし!被せ気味で砂糖で!って主張するし!」

「…砂糖とかキモイ。」

これは素直な感想や
衣が付いとるとはいえ、ソーセージに砂糖とか想像だけで気持ち悪い…

「キモイってなんだ、砂糖しか認めないって言ってんだろ?あぁん?」

アカン

完全に地雷踏んだんちゃう?
どこぞの部長さんかいな…

ってか、こんなことで!?俺悪なくない!?

ほんまに砂糖とか考えられへんし!


ちょっとここで待ってなさい!!
って言って走り出したはなは俺よりも早かったんやないやろか?

ほんまにスピードスター、返上せなあかんなぁ

遠くで「スローライフ」って聞こえた気がして、テンションだだ下がりや




数分後、コンビニ袋を下げたはなが血相を変えて帰ってきた


「大変だ、謙也!!●ブン●レブンでケチャップしかないって言われた、信じられない!!」

ほら、みてみぃ

「せやから言うたやろが!」
「砂糖はローカルだって言うのか?だれか夢だと言ってくれ!」

「現実みんと、あかんではな」

「おかしい、おかしすぎる…ケチャップなんて邪道だ!」

「そないゆぅてもハッキリしたやろ、砂糖が邪道や!」

「ケチャップのフレンチドックなんて認めない」

「アメリカンドックやて、何べん言うたらわかるんや?ケチャップしかあらへんのや!せっかくやし、食べよぉや。」

「いや、別に砂糖を買ってきたから砂糖で食べよう。」

買ってきたって…

ケチャップを付けようとした俺の手に素早く砂糖をまぶしたアメリカンドックを差し出す可愛い彼女

見た目ニコニコしとるけど、こんなに不機嫌なはな見たことないんやけど

「はい、謙也アーン」

語尾にハートを感じるけど、有無を言わせない威圧感がハンパないんやけど!

砂糖味に抵抗を隠せずに、口を閉じとると痺れを切らしたはなが、般若のような顔をして無理やり口に突っ込んできよった

「がぼっ……!?」

「んー、おいしーよねぇ?」

謙也、心を無にして咀嚼するんや…

「………ぉ、想像よりも悪ないやん。砂糖もいけるかもしれんなぁ」

「でしょ、でしょ!?やっぱり砂糖なのよ。」

「…でもケチャップのがうまi「スローライフ!!!!!」



ローカルフードのこだわりは恐ろしいと実感した瞬間

砂糖味のアメリカンドック(はな的に言えばフレンチドック)を一つ食べきるまで口聞いてもらえへんかった…


end



(二人で何食うとんねん。一口寄越せや、謙也。)
(白石君、お疲れー。)
(うわっ、甘っ!なんやコレ!うっわっ!)
(白石君、ちょっとそこにお座んなさい)



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