もし彼が彼でなければ。

そう口を開いたのは彼女で、一番に僕を拒絶したのも彼女だった。
誰よりも聡いその子は僕の目を見るなり、偽物には興味がない。ただそれだけ残してボールを近くに居た一ノ瀬君に投げてバスを降りると二、三日消える。とだけ言って去っていった。
彼女は気付いていた。
一番関わらないのに、僕の一番奥深くを見抜いている。

「最低だな。お前、自分のことを一番欺いてるよ」
「お前も、人のこと言えねぇんだろ?」

綺麗に揃ってる長い睫に縁取られた瞳が僕を見据えると綺麗な菖蒲みたいな色をした瞳が一瞬暗く濁る。
その一瞬の濁りが僕たちになんとも言えない支配欲として心を覆う。

「可哀想な奴ね。」
「お前に何がわかる」
「何もわかりはしないさ、お前と私の悲しみは次元が違うから。だから可哀想。」

素直な感想だろう?そう薄く笑うと誰もいないグランドに視線を向ける。

「今回のことも、どうせお前自身、自分を嫌うから、欺くからこうなったんだろ?どうだ、だからこのザマだ。」
「何がわかる、」
「わからないっていってるだろ?」
「君は、」


意識混濁。
なんだかわかんなくなる。彼女はうすら笑いながら僕のマフラーを手元に寄せる。
近くに感じる呼吸がどうも心臓に早鐘を鳴らす。端正な顔立ちに苛立ちや僕たちに向けられる憎悪がよく見えて、今すぐになかしてやりたくなる。

「お前は何を見てる。敦也の幻影?認められないDFとしての自分?馬鹿すぎて反吐がでる」
「おまえっ、」

胸ぐらを掴んでやれば直ぐに息を詰める。僕とはいえ違う白い肌が熱を孕んだようにみえた。ああ、コイツは。

「女だから認めてもらえないってか?」

「っ殺すぞ、」
「甘ったれんな、そうなんだろ?フットボールフロンティアに出場できなくて粗方、その感情をこの戦いに向けてる」
「違う、違うっ!」
「どこがだよ、」

泣きそうな顔してんじゃねーか。

「甘いんだよ、お前は」「だから、試合に出れるくせに、くよくよしてる僕が嫌い。」
「ちが、違うっ」
「違わない。」
「そんなこと、私は、ただ」


お前のもつ感情に、少しでも、力になりたかっただけなのに。

ぼとらぼとりと大粒の滴がユニフォームに吸い込まれていく。
ああ、どうして、どうしてこうなってしまったのだろうか。彼女は僕たちを心配してくれただけだったのに。




皿から落ちた感情
( それはくしゃりと音を立ててつぶれていった )

「僕を、嫌いにならないで。」
精一杯の本当は最早彼女に届かない。


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不器用彼女と不安定吹雪くん。
一番まとまらねぇよこれ。
なんかどっちも不幸だ
なんだろうか、不安定。

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