※《繋がれていたのは》の続編


何時ものように薔薇園に呼び出され、私を待っていたのは彼、エドガーと婚約者フィオナだった。フィオナな優しそうに笑いながら私を見た。何時も思うが、その人を小馬鹿にしたような笑みは不細工になるだけなのだからやめたらいいのに、と内心思いながらいつものように作り笑い。どうでもいいのにどうして私はこんなところに呼び出されてしまったのか。

エドガーは笑いながら私に座るように勧め、遠慮なく私は椅子に座らせて頂いた。私は執事から出された木苺の紅茶カップに注がれたオレンジペコを傍目に嬉しそうに彼の隣に座るフィオナの可愛らしいだけが取り柄の顔にどう紅茶をかけてやろうかと思案するしかもう平常心を保つことは出来なかった。
こうやって開かれる何時もの茶会ですら彼女は私に余裕すら与えてはくれないのだ。

図太い女。

彼もだ。わざわざ別れ話をし、それでもなお体を重ねた事に対してどう対処をしてくれるのか。あまりにも冷めきっている自分の思考にほとほと呆れかえる。
エドガーはいつものようにしてくれ、と言うと私にラズベリーとローズのマカロンを皿に取り分けた。フィオナにはブルーベリーとバニラ。貴方のをとるわ、とフィオナは彼から皿をとるが彼は「私はみているだけでいい」とだけ言って椅子に座った。
カチャリ、とフィオナは配られた色のマカロンに不服を込めた視線を私に配すが、私は鼻で笑うように指先でローズマカロンを口元へ運んだ。

「名前、最近どうだい?」
「…相変わらずよ、今度イタリアに留学する事がきまったわ」

そこの落ちこぼれの歌姫様とちがってね。と視線を向けてやれば、フィオナは手に持っていたフォークを強く握りしめているようで、手のひらが白く変色していた。

「また君の椿姫がみたいな、」
「残念ながら、あれはもうやらないことにしたの。思い出話はきれいな方が好きだからね」
「手厳しいな。そういえば、フィオナも」

そう取り繕うように彼はフィオナの方を向いて私には向けない優しい笑みを向ける。フィオナは嬉しそうに頬を赤らめながら彼を見つめてこの間の最悪な舞台の話をさも自分は上手く出来たかとしゃべり始める。
つまらない、これならばアメリカのマークたちとしゃべる方がよほどおもしろいだろう。

「エドガー、」
「どうしたんだ名前」
「帰るわ。」
「来たばかりだろう」
「つまらないから帰るの。これ以上の理由は無いわ」

私は立ち上がり紅茶カップを手に持つと勢いよくフィオナにぶちまけてあげた。フィオナはわなわなと怒りに顔を染めて私を睨み上げた。
何をするの!と彼女は憤慨すると私の襟元に手を伸ばす。私は嘲り笑うように彼女を見下すと「下手なくせに、外見自慢があまりにも鼻についてしまったのでつい」と、言ってしまった。というか言ってやった。
どうせ会うことは二度と無いのだからどうでもいいか。と内心思い、彼女の腕を払った。
汚い子が、と意味を込めて侮蔑の視線を向けてやれば彼女は泣きそうな顔をした。
不細工。
彼は執事が持ってきたタオルを彼女にかけると先に部屋にいて、とうながさせ、執事とともに屋敷に向かわせた。

「どういうつもりだい。」
「どういうつもりもないわ。」
「それほどフィオナが憎いのかい」
「笑わせないで、つまらない冗談は死ぬほど嫌いなの。」
「名前、」

私を怒るなんてお門違いじゃなくて?そう笑ってやれば彼は問答無用で私の頬を叩いた。

「この間の別れ話は本当。貴方が嫌い、エドガー」
「少なくとも、私は愛してる」
「みんな、でしょう。エドガー。貴方の愛は、私に嘘をつかせ続けるだけのまやかしよ」
「違う、私は」
「嫌い、貴方だってもう私の事が嫌いでしょう、エドガー。可愛い許嫁を馬鹿にされたんだもの」

憤るように彼は私の腕を掴むと乱暴に引き寄せてキスをする。また、心臓のどこかがくちゅくちゅと音を立てて抉られる。

「今でも、私の心はお前しか愛してない」

紡がれた愛の言葉に
( 本当なんてないのだ )

サヨナラ、エドガー。と紡いだ言葉に真意などない。所詮紙切れのようにうすい私たちの関係も、ビリビリといとも簡単に破けてしまうのだから。

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まだまだ続く。

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