エドガー・バルチナスは私の恋人である。それ以下も、それ以上の関係はない。
むしろ、彼にはとうの昔に婚約者がいて、当然のように、私との付き合いは幼なじみを延長線で伸ばし、少し一線を越えてしまっただけの薄っぺらい関係なだけなのである。

実際、最近彼は婚約者を溺愛してるために私の存在なんてどうでもなしに過ごしている。そんなもんだ。英国の貴族様方は気まぐれに恋をするのがお好きなのだから仕方がない。どうせ、幼なじみという関係から離れたいが為の一瞬の恋人。
私は所詮捨てられた駒なのだ。

それに関して、私が憤慨しているか否かと問われれば否定の一言につきた。
実際、私はそれほどにまで彼に心酔していたかというとそうでもないのだ。彼の高慢さや、鼻にかけたようなフェミニズム。回りくどいキザな言葉も、全て私を固まらせるものでしかない。それならば、イタリア代表のフィディオ・アルデナの手放しの愛の言葉の方がどれほど心を満たしてくれるか。

結局のところ、私はもう彼を愛してはいないのだ。それは彼も同じで、彼は言葉にすらしないが、目では語り尽くしていた。よく言うじゃないか。目は口ほどに物を言うと。私を傷つけまいと口を閉ざしているのか、はたまたプライドが許さないのか。

私は一つため息を吐くと彼の淹れてくれたストロベリーティーの甘酸っぱい香りを鼻孔いっぱいに嗅いだ。つん、と痛む。どうも最近涙腺が弱い。
もうこの紅茶を飲むことは無いのだと思うと心の片隅で後悔や様々な感情が折り混じる。

「名前、」
「エドガー、嫌い、貴方が嫌い」

カチャリと陶器の重なる音がしたと思えば、彼は目を伏せて私の瞳を見ることはなかった。その事に私は予想以上に傷を負っていた。くちゅくちゅと音をたてながら抉られるこころに吐き気を感じている。
瞳からは睫を濡らす涙がボロボロと流れ始めて、私の頬や指先を濡らしていく。

「名前、」

そ、と私の頬に触れようとする彼の手を優しくはらい、私は未だに溢れる涙を指先で何度も何度も拭う。こんな風に別れたかった訳じゃないのに、どうして、どうして私は弱い泣き虫なのか。心臓がいたい。
冷たい彼の指が私の頬に当たり、親指で涙を拭う。
泣かないでくれ、そう言った彼の表情はいつものフェミニズムの時のかお。
慰めるだけの優しいキスも押し倒された瞬間の柔らかさも、全て私が望んでいるものじゃないのにいつも受け流されてしまう。

「いや、エドガー。もう別れましょう」
「そんな話、今はやめよう」

ぎゅ、と握られた冷たい指先は私の心臓部分を掴むかのように底冷えしている。私は未だに止まらない涙と、非生産的なこの行為の先にある虚無感にまた嘆くばかりだった。


繋がれていたのは
( 冷たい手のひらだけ)

「名前、名前っ…」
「っ、」

むせかえるような紅茶の香りが私の頭を犯していく。


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続く。かも

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