柔らかい肌は、柔らかい指が触れれば、滑らかに指を這わせた。
柔らかい肌は、鋭い刃が触れてしまえば、いとも簡単に皮膚を裂いてしまった。
それを承知したうえでこいつは私の心臓にめがけて苦無を這わせているのだ。鋭利に尖らされたそれは躓く皮膚に幾つもの穴をあけて、出血させる。
まるで花のように肌を滑り落ち、畳に染みを残す。それを良しとは思わない私は眉を寄せてその行為を睨むが、それすら嬉しそうに見下ろすコイツの顔は本当にムカつく。

「し、ね。鉢屋」
「お前の顔、凄くそそるよ」

雷蔵と同じ顔をしてるのに、いけ好かない厭らしい笑みを私に向けて。何故こうなったかを考えるのは酷く滑稽で、むしろ自分ですらわからなくなるほどの理由だった。

【依存】なのだ。

自分以外のものに頼って生きること。だが、三郎の場合の依存は異常なのだと私は思うのだ。三郎はまるで血のように紅い瞳を愉快そうに歪めながら私の頬に手を添えると愛おしそうに撫でる。背筋からは嫌悪からか総毛立ち、拒否するように体が揺れた。

「三郎、私も殺すのか」
「お前は殺さないよ。だってまだ依存しきってないもの」

先程、三郎の依存は異常なのだと言ったが、彼の異常依存は対象物を壊し、殺し、自分自身だけのものにする事で満たされるのだ。人間の欲求というものは大概変なもので満たされていると痛いほど肌で感じる。

「いっそのこと、さっさと殺してくれた方が死ぬほど楽だ。」
「そう簡単に死んでもらっても俺はこまるんだがな。」
「とかいって。雷蔵の時はすぐに殺してあげたくせに。」
「雷蔵は特別さ。」

特別、ねぇ。そう内心で思いながら私は虚ろぐ瞳を彼に向ける。

「そんな目を俺に向けるなよ。」
「呆れているんだからしょうがないだろう」

そう言った瞬間にわき腹に走る激痛に眉をしかめた。トクトクと急激に全身が鼓動を感じる。す、と視線を下腹部に向ければ真っ赤な液体が広がっているじゃあないか。私は視線を三郎に向ければ、随分冷めた表情で私を見下ろしてる。ざまあないな。そう思いながらまばたきをする。

「三郎、やっと殺してくれるんだね」

そう微笑んでやれば、三郎はすぐに泣きそうな顔になって私の事を抱きしめる。

「ごめん、ごめん、ごめん。許して、こんな俺を」

子供のように繰り返しながら三郎は力いっぱい私を抱きしめる。本にこいつはアホだなぁ。と思いながら私は霞む視界で天井を見つめた。何度も割かれた皮膚よりも、心が痛むのは何故だろうか。

「三郎、ばいば、い」
「いかないで、いやだ。ひとりにしないで…!」


悲劇は皮膚の感触を知っている

嗚呼やってしまった。あの皮膚の裂け、吹き出すような血の感触が指先から離れないのだ!あれほどにまで愛していた存在がもう居ない!
どうしよう、私はとんでもない過ちを犯してしまったんだ!
ねぇ、助けて。雷蔵!私を抱きしめて…!お前だって、さっきまで俺に笑いかけていたじゃないか!
そうだ、いっそのこと俺も共に逝けばいいんだ!


そう思い立った彼を誰がとめられるのか。皮膚を裂く音が部屋に響いた。紅いそれは、花の花弁のように散り、まるで被さるように少年の胸に咲く。さて、誰がこの瞬間に気付くのだろうか。知っているのは、悲劇《彼ら》だけ。




全く理解不能スイマセン…涙
書いている本人も大概理解しきれないところが大量にございますがなんだかとってもたのしかったです^^。
今回は企画に参加させていただきありがとうございました^^

花枝 疵痕提出/0626



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