愛をくれと言われた。
その答えを与えるには私はどうも愚かな思考しか追いつかないのである。私が善意を持ってその愛というものを彼に与えれば、彼はその一時的感情を永遠に継続させることが出来るのであろう。
しかしながら、そこから私にどんなメリットが発生されるというのだろうか。
言葉やスキンシップから始まる愛というものはどうも今のところ想像し難い。
ならばプラトニックにゆけば、逆に相手の求める愛にはならないと思う。反対にそれを拒絶するとしよう。その愛は一瞬にして憎悪にかわり、欲求は全ての憎悪が加算された殺意にかわり、私に向けられるのだろう。それは是非ともお断りしたいところだ。

では、どこに解決策があるというのか。

答えは沈黙。
沈黙さえしておけば全てどこかへ消え去るのだ。これほど良心的な答えはないんじゃないだろうか!私は死んだような瞳を一瞬輝かせた彼を見つめれば内心嘲るように笑った。
馬鹿な奴だ。そう思いながら私はクルリと体を反転させる。しかし、彼は嬉しそうに笑いながら私の腕を掴んで、自分の方向へ引き寄せた。

「つかまえた」

そう呟くと満面の笑みで私の体をきつく抱きしめる。苦しい。なにこれ。

「ねぇ、答えはくれないのか?黙ってばかりだと俺は好きな事をするよ。拒絶は絶対しちゃだめだ。そんなことしたら俺は君のこと殺しちゃうから。」

想像通りの言葉をはっして彼は私の瞳をじ、と見つめる。私は逸らせもしないその視線に捕らわれてどうも身動きができない。まるで蛇に睨まれたなんとやら。どうしようか、考えても答えは最悪な方向にしか運ばれてくれない。
私はなんて奴に捕まってしまったのか!
呼吸もできないこの腕の中は本当に居心地が悪くて仕方がない。私は必死に腕を伸ばすがどうも相手の方が力が強く、私を腕の檻に閉じ込める。

「なぁ、どうして答えてくれないんだ。」
「実はお前のことがどうでも良いから」

応えれば嬉しそうに笑い、私の首筋に、顎に輪郭に、指を這わせる。ゾクリと背筋に冷たい何かが這っていく。それはまるでいつかさわった蛇の鱗のように、どこか冷たく、生暖かな舌が這いずり回るような感覚。

「やっと答えてくれた。」
「ねぇ、何で私を閉じこめるの」
「君が好きだから」
「間違った愛だね。反吐がでる」
「俺はね、まるで小動物みたいに怯えて俺の瞳を見つめるお前が好き。震えて答えすら出してくれない呼吸も、その白磁みたいな肌も、全部全部。」

邪魔する奴は全部消したよ。どれもね、君の顔を借りたのさ。せめてもの報いだろう。君を好きな奴らはきっと天国に逝くような気分だったろうに!嗚呼、いっそのこと死ぬなら俺も君に殺されたいんだ!だったら、私は地獄に堕ちても天国のように思えるさ!!

「呆れるよ、虫唾が走るほど」
「君が俺に言葉を向けてくれることで今すぐにでも天国に逝けそうだよ」
「狂ってるな」

そう発すれば、彼はまた笑いだして私の指先を一つ、一つと絡めていく。その動作を見つめていれば、有り体な恋人同士に思えるだろうが、私はその行為にすら背筋が凍える。

「まるで、捕食者だ」

恍惚そうな表情でそう告げると、噛み千切るように首筋を貪った。熱く、熱を孕んだ其処からは、彼の唾液にまみれた肉片と、血液だけが溢れ出す。

「あ、う」
「ねぇ、私の事を愛して」

その首筋に吸いつくように舌をくちゅくちゅと掻き回していく。尋常じゃあ無いくらいの痛みが私を犯す。しかし意識を遠くに放り投げ出せないのは日頃のせいなのだろうか。こういうときこそ簡単に意識を飛ばせたら、と何度も呻く。
雷蔵の顔をした彼は赤く照らされる唇を歪ませる。そうして皮膚の断片の残る舌をチラチラとさせて私にこういうのだ。


愛に飢えた捕食者に特上の美味を
「もう食べたからお前は俺のもの。愛してるよ、名前」

喉元に詰まるこの言葉はなんだろうか。



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