「僕を愛して。」

そう言って彼の首筋を絞めていくボクの指先の深紅色に染まっていて卒倒したくなった。いつの間にこんなにも紅くなってしまったんだろうか。なんだか心音がやけにうるさい。いい加減にこんな身体が枯れてしまえば、ボクの中にある何かは消えてくれるのに。

「くる、しいよ」
「名前、僕を愛して。」
「いさ、くん」

そう言ってうすらうすらと閉じていく彼の瞼にキスをする。彼は呼吸を詰まらせながら、せい一杯に意識を僕に向けている。ああ、なんて恍惚。彼の意識が全部僕だけになるだなんて。とてもじゃないけど、こうも簡単にできるなんて思わなかった。

幸せ。幸せ。
そう思いながら唇がいびつに弧を描いた。くるってる?それは前から知っていた。彼を好きになった時点でもう世界はいびつにしか笑ってはくれなかったのだ。赤く染まる彼が好きだったくのたまも、彼がかわいいといった茶屋の子も、彼を好いていた女の子も。全部全部殺したのは僕なのに。それなのに、そんなこと知らない彼はいつもそばにいた。

『どうして私の好きな人はよく殺されちゃうんだろうね』
『どうもみんな運がわるいんだよ。名前、恋人は幸運な人がいいね』

そうだね、と笑いながら僕の瞳を見て笑う彼を見たときの幸福感。彼を支配できる至福の瞬間。怠惰な優越感。すべてがすべて僕を満たしていった。

「名前、名前。僕を見て、僕を愛して。好きだと言って。」
「いさく、やめ、て」

その浅く広がる呼吸もすべてボクのものになってしまえば、どれほど満ちるのか!嗚呼、彼の呼吸が段々とまる。瞳が虚空を描く。僕しか見えていない。

「ねえ、おやすみのときは口吸いをしなきゃ。」
「あ、が」

好きだよ、名前。そう言って瞼を閉じ彼の唇に自らの唇を合わせた瞬間のなんともいえない感覚。すべて許されて天上にでも逝けそうな気がしてしまう。
でも、彼は優しくおやすみなんてもう言えないのだ。だって、彼はいとおしい寝顔を見せて死んでしまったんだもの。さあ、どうやって彼を埋めよう。
彼によく似合うあの裏裏裏山の花畑に埋もれるように、真紅の彼岸花に埋もれるように埋葬しよう。そうだ、そうしよう!!!

「ああ、大好きだよ。名前」

だって君は、ボクの永遠の恋人なんだから。




endless worldend



「苦しみからの解放は誰もできないのだよ」
「それは、どうしていえるの?」
「君が目の前にいる時点で私の苦しみはどうも解消されないんだよ。この猟奇的殺人者め」
「ひどい言い方。僕は君のために殺してるのに。」
「私のためってなあに。じゃあ、君は私が殺してと言えばどんなやつでも殺すの?」
「君のためなら、どんな神でも、人間でも大統領でも、どんな奴だって殺すさ」

まるで宗教だ。と彼は笑う。
僕はだって半ば君に対する愛は信仰に近いものだし。と思いながら手にあるバタフライナイフを手首に押さえつけ、切れもしない手首が切れる妄想に頭を働かせる。きっと教祖のために殺し、死に、殺すことは立派な信仰だと思うんだよね。

「やっぱり、お前は頭がおかしいよ。ずいぶん昔から」
「君がいるから僕はおかしいのかも知れないよ」
「じゃあ、いっそのこと、また殺しちゃえば?」
「次こそ楽に殺してあげられるけど、今の君を殺しても僕には自殺って道しかなさそうだからやめておく。それこそ君っていう神に対する冒涜だ。」
「良く言うよ。」

そう鼻で笑い、手に持っているカフェモカを口に含んで彼はあざけるように僕の肩に頭を乗せた。

「いい加減に、この世界の終りの場所と言える所からから逃げ出したいものだよ」
「君が僕につかまってるとでも?」
「そうだ」
「うそおっしゃいな。君は好き好んで僕につかまってるんだろう。名前」
「おやまあ、ずいぶんなことを言うようになったね。」
「歳は食うものさ」

そう言って、僕は彼の唇にキスをする。どうも濃い味しかしない彼の唇を欲するあたり、もう宗教も糞もない気がする。

「馬鹿な関係」
「前からそうだろう。」
「殺すほど好き」
「いやな奴だ」





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