※ひとはそれをの続編

俺の投げた暗器は正確に、的に吸い込まれるように当たる。
見えてはいない。だが当たるのだ。だからあえて先生は俺に実習で暗器を使わせる事を避ける。俺も的に的確に当たるそれを怖がり暗器を使わない。
一度、それをやらかしてしまってから。
たしかは組の仲の良かった奴だったと思う。音がする方向にただ苦無を投げただけだった。それだけなのにその苦無が避けきれなくて額に貫通。皮肉な話だろ?
自分の手で一人の友人を殺したんだぜ。光すら見えなくなってきたこの瞳が。その時の命が消えた瞬間の虚しさって言ったら。

「だけど、俺はここにいるんだ。」
「なに、そんな話をしたいが為に俺のとこにきたの?級友のひとりやふたり殺す事は俺にだってあるさ」
「勘ちゃんは怖い奴だなぁ。あ、俺の饅頭食ったろ」

勘ちゃんは俺の手を掴めば口元に押し当てて馬鹿。とゆっくり言う。馬鹿は勘ちゃんでしょ。と笑って言えば口に無理やり饅頭を詰め込まれる。
勘ちゃんは俺が本気で喧嘩のできる唯一の奴だと思う。笑っている時の顔はまるで菩薩みたいな癖に言ってることとやってることがまるで逆。
俺はお前が好きだよ、とか言いながら地面に叩きつけられてボコ殴りされたのは割と最近。
ただこの同室の怖さは半端ではないのだ。俺の口の悪さがつい可愛く見えるほどで、ついこの間は逆ギレして兵助の顔に豆腐ぶち込むだなんて事件すら起こす奴なのだ。実際は見えないけど。ただ理由が、「俺の蒼太夫とるなんて生意気」。唖然だよ。

「ねぇ、名前。好き」
「勘ちゃん、」

騙されないよ。と呟けば勘ちゃんの右手に忍ばされている苦無を指先で取り上げる。んなもんもってんな。と思いながら、首筋に絡む勘ちゃんの指をひとつひとつはがしていく。




言葉の無意味さを確かめよう




「お前は俺を殺したいんだろ」とあまりにも苦しそうに笑うもんだからつい殺意がわいた。その閉じられた瞼の奥にある紫色の瞳が光すら見えなくなってきたのはいつものように聞いている。
違うんだ、そんな事が聞きたいんじゃない。お前が弟に向けるような愛がいい。むしろもっとしつこいくらいの愛が欲しい。
腕をひとつ俺の頬に這わせれば、いつものように顔を触る。
ただこの瞬間が俺とお前の素直な時間だったと言わせてほしい。





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