小学生の頃好きな子がいた。
絹ごし豆腐みたいに真っ白で綺麗な肌をして、相反するように真っ黒な髪。とても柔らかな髪をしていたと思う。
その子は父方の実家が老舗の豆腐屋を営んでいて何時もお弁当には美味しそうな豆腐ハンバーグが入っていた。彼女はそれを何時も可愛らしい笑顔で頬張っていた気がする。
しかし、俺は昔、豆腐が嫌いだった。何故嫌いだったかはもう覚えてないけれど、好きな子の実家が豆腐屋で彼女も豆腐が大好きとなれば話は別で、良いところを見せたくて豆腐を食べられるようになり、大好きになった。

しかし、彼女は五年生の最後に転校。母方のおばあさんが病気で倒れたらしく、その看病のため母と一緒に神戸あたりにいったらしい。そのため、俺の初恋というものは強制終了なさった。
おじさんの方は一応まだ店を続けており、代々と続く店の味は変わらずうまい。

懐かしい、懐かしすぎる話をしていると思う。高校二年に上がれて嬉しいのか、勘ちゃんとおんなじクラスになれたがらテンションがあがっているのかもしれない。
よし、今年も頑張ろう、という気にもなる。グッジョブ春。ナイス学年主任。

教室に入れば先に来ていた鉢屋がつまらなそうな表情で俺を見つけて苦笑した。

「雷蔵と別れたな。」
「雷蔵ったら、目の前で《やった!三郎、別々だよ!》っていうから俺心境複雑だ」
「あはは、さすが雷蔵。」
「あれで確信犯だから、怖い」

そうだな、と肩を叩き名前順の席についた。か行だから廊下側の2列目の後ろの席につく。運良く勘ちゃんが斜め後ろの席でホッとした。よかった。ぼっちにならなくてすんだ。
タイミングよくチャイムが鳴り担任が教室のドアを開く。そして、その担任の後ろを歩く女子生徒に、俺は呼吸が止まるほどの視線を向けた。

担任が汚い字で彼女の名前を書くと彼女はゆっくりと口を開いた。ああ、夢みたい。彼女は昔よりも可憐になっていた。心臓がバクバクと五月蠅い。

「はじめまして、名字 名前です。好きなものは、はんなり豆腐ちゃんです。よろしくおねがいします」

メガネの奥の愛らしい瞳が笑ってる。ヤバい、やばい。

「名字は久々知の横の開いてるとこに座ってもらうな」

担任は俺の空いている席を指さすと彼女に向かうよう促した。彼女が通路を颯爽と歩く姿はまるで豆腐が擬人化したみたいに綺麗だった。彼女は席につくと俺の方を向いて微笑んだ。

「お豆腐、食べれるようになりましたか?兵助くん」
「え、」

その天の邪鬼っぽい笑みも全て昔と変わっていなくて思わず上擦った声が出る。彼女はクスクスと笑いながら俺を見ると口元に手を当てて話し始めた。

「すっごくかっこよくなって一瞬わからなかったよ。でも睫とお名前でわかっちゃった」
「俺は教室に入った瞬間から気付いてたよ」
「まぁ。えへへ、これからよろしくね」
「うん、よろしく」

彼女は白い頬を朱色に染めて笑うとはんなり豆腐ちゃんのペンケースをカバンから取り出した。


好きな人は豆腐でした。

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恋人はイソフラボーン
な連載をするか否か。




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